中国科学技術大学は、中国では比較的小規模な大学ながら、北京大学や清華大学と並ぶ名門校となっており、国際的な知名度も高い。米国のカリフォルニア工科大学をモデルに、自然科学研究に特化した「小粒でもキラリと光る」研究型大学を目指している。
沿革
1949年に中国科学院が発足し国内の研究開発は発展したものの、科学技術に携わる人材が不足しており、中国科学院の研究ニーズに応えるには程遠い状況だった。そこで1958年5月、ソ連科学アカデミーのノボシビルスク支部とノボシビルスク大学との連携事例を参考として、中国科学院による大学設立の判断を共産党中央に仰いだところ、6月に承認が下りた。その後中国科学院は、大学名を中国科学技術大学とし準備作業を進めた結果、9月に同大学を北京市西郊外玉泉路に開学した。第一期生は1,600名で、中国科学院の郭沫若が学長を兼任した。専攻分野の設置に当たっては、中国において充実が急がれる手薄な分野又は空白分野、とりわけ原子力や宇宙科学技術に関する学部や専攻を重点的に配置した。中国科学院傘下の研究所や学部との連携を図りつつ研究者・技術者の育成を目指すという方針のもと、趙忠尭(Zhao Zhongyao)・銭学森・華羅庚(Hua Luogeng)・郭永懐(Guo Yonghuai)らがそれぞれ近代物理系・近代力学系・数学系・化学物理系などの主任を担当し、また自ら講義を行った。
文化大革命が始まると、中国科学技術大学はその影響を大きく受けることになる。1966年には大学院生の募集が停止され、さらに1969年には当時の指導者である林彪の指示により、北京市外へ移転することとなった。その後、河南省南陽、安徽省安慶を転々とし、最終的に安徽省の合肥に落ち着いた。また所管する組織もまず安徽省に、続いて第三機械工業部に変更となり、1973年に再び中国科学院の管轄に戻った。移転中、教学用の設備類はほぼすべてが廃棄され、教職員の三分の一が流出し、いくつかの専攻分野が廃止となった。中国科学院とその傘下の研究所が、直接学校の運営に当たるという長所も失われた。
文革終了後、大学は徐々に正常な運営軌道に戻ることになった。1981年国務院は、中国科学院の5学部と中国科学技術大学を博士号及び修士号の授与教育機関として認可し、中国科学院は1982年から博士号及び修士号の授与をスタートした。1983年、中国大陸で初めて博士の学位が18名に授与されたとき、うち7名は中国科学技術大学出身の大学院生であった。こうして中国科学技術大学は、中国で最も重要な理系大学の一つに返り咲いた。
包信和現学長
中国科学技術大学の現学長(中国では校長)は包信和であり、郭沫若初代学長から数えて10代目である。

包信和は、1959年に江蘇省楊中に生まれ、復旦大学化学科で理学博士号を取得した後、1989年にドイツ・マックスプランク協会のフリッツハーバー研究所の研究員となった。1995年に帰国し、中国科学院の大連化学物理研究所の研究員となり、2000年には同研究所の所長に就任した。その後、中国科学院瀋陽分院長や復旦大学常務副学長を歴任した後、2017年7月から中国科学技術大学の学長に就任している。
専門は、エネルギーの高効率化に関する触媒化学である。
学生数、教職員数など
2021年9月現在の中国科学技術大学の在校生は、全体で約34,279名、博士課程学生約9,071名、修士課程学生約17,532名、学部学生約7,676名である。北京大学や清華大学の約4万名とほぼ匹敵する大学生数である。
一方スタッフの総数は2,621名、その内教授クラス871名、准教授クラス903名である。総じてスタッフは若く、45歳以下が約70%、35歳以下が約35%を占めている。また、中国科学院と中国工学院の院士は62名在籍している。
日本の大学の学部に当たるのが「学院」であり、学科に当たるのが「系」である。中国科学技術大学は、数学、物理学、化学・材料科学、生命科学、情報科学など23の学院を有し、その学院内に33の系を有している。ほとんどが科学技術系のものであるが、4つの人文社会科学系の学院、具体的には「管理学院」、「公共事務学院」、「人文・社会科学学院」、「マルクス主義学院」を有し、金融学、管理科学、統計学、法学、英語、考古学などを教えている。このほか、蘇州高等研究院、上海研究院、北京研究院、先進技術研究院、国際金融研究院、附属第一医院(安徽省立医院)を有している。
重点実験室など
2021年末現在で中国科学技術大学は、16の国家級実験室と62の省、中国科学院、国務院の各部の実験室を有している。16の国家級の実験室の中には、国家同歩輻射実験室、合肥微尺度物質科学国家実験室(準備中)の二つの国家実験室、火災科学国家重点実験室、核探測・核電子学国家重点実験室の二つの国家重点実験室が含まれている。
研究成果など
大学HPによれば、2016年8月までの10年間にSCI論文28,785編を発表しており、これらに対する引用数は延べで334,996回に達しているという。また、発明は1,073件、実用新型は354件となっている。
国際的な大学ランキングを見ると、QS国際大学ランキング2022では清華大学(17位)、北京大学(18位)、復旦大学(31位)、浙江大学(45位)、上海交通大学(50位)に次いで中国第6位となっており、世界全体では98位であった。Times国際大学ランキング2022でも、北京大学(16位)、清華大学(16位)、復旦大学(60位)、浙江大学(75位)、上海交通大学(84位)に次いで中国第6位となっており、世界全体では88位であった。