1. 人材移転、構造調整、科学技術体制改革のさらなる深化に関する意見 

南巡講話により改革開放路線の推進が決定的となったことを受けて、1992年8月、国家科学技術委員会と国家経済体制改革委員会は科学技術政策を市場経済との関係を調整するため、「人材移転、構造調整、科学技術体制改革のさらなる深化に関する意見:关于分流人才、调整结构、进一步深化科技体制改革的若干意见」を共同で発表した。

この意見は、改革開放政策が継続すると確定した現在が、科学技術体制の改革を深化させる絶好の時期であるとして、人材の流動性を促進し、構造調整を行い、科学技術システム改革をさらに強化することを目指したものである。科学技術の資源を合理的に配置し、科学技術の潜在力を十分に発掘し、科学技術システムを最適化し、社会主義市場経済に適応した体制を確立し、科学技術を第一の生産力にしようとするものである。

具体策として以下が挙げられている。

  • 「経済建設は科学技術に依存しなければならず、科学技術の仕事は経済建設に向かわなければならない」という基本方針を堅持し、科学技術の頂点に極めるという戦略的要求にしたがって、歩調を速め、力を尽くし、科学技術システムの人材の流れと構造調整を推し進めなければならない。
  • 基礎的な研究、ハイテク研究、重大なプロジェクトの活動に対し、十分な保証と持続的で安定した支援を提供する。
  • 国の技術開発機構は多くの川が分かれて流れるように、科学技術企業、企業集団、ハイテク産業などの創設と発展の道を歩むべきである。
  • 社会公益機構と科学技術サービス機構は、経済、社会、科学技術の発展の必要に立脚し、組織ネットワーク化、機能社会化、サービス産業化の新興第三次産業として徐々に構築されるべきである。
  • 科学技術企業やハイテク産業を強力に発展させ、科学技術の成果と各種生産要素の最適化の組み合わせを実現することにより、科学技術が経済の前面に出て経済成長を推進するという新しい経験を積み重ねるべきである。
  • 知識を尊重し、人材を尊重し、広範な科学技術者の主体性、積極性、創造性を十分に引き出し、発揮させるべきである。

(参考資料)
・百度HP 『国家科委、国家体改委印发《关于分流人才、调整结构、进一步深化科技体制改革的若干意见》的通知』 

目次へ戻る▲

2. 中華人民共和国科学技術進歩法 

中華人民共和国の「科学技術進歩法:科学技术进步法」は、科学技術の進歩を促進し、科学技術を第一の生産力としての役割を発揮させ、科学技術の成果を実際の生産力に転化させ、科学技術を経済と社会発展の基礎とすることを制定された法律である。

1993年7月に共産党全国人民代表大会常務委員会で了承され、1993年10月1日から施行された。この法律は、全体で10章、62条から成り立っている。章立ては次の通りである。

第一章 総則
第二章 科学技術と経済建設および社会発展
第三章 ハイテク研究とハイテク産業
第四章 基礎研究と応用基礎研究
第五章 研究開発機関
第六章 科学技術人材
第七章 政府の保証
第八章 科学技術奨励
第九章 法的責任
第十章 付則

鄧小平が主導し江沢民が受け継いだ改革開放政策は、第一章の総則において、科学技術が第一の生産力であること、経済建設と社会発展が科学技術に依拠すること等の規定で担保されている。また、科学技術研究の自由を保証し、科学技術を世界の先進水準に到達させるとの目標も明確にしている。

本法は、文革終了以来の改革開放政策をさらに発展させるための様々な政策の根拠を与えることになった。具体的には、海外人材の帰国政策(海亀政策)、ハイテク・新技術産業開発区の設置、科学技術奨励、研究開発機関の所長責任制の導入などである。

本法は、その後胡錦濤政権の2007年12月に大幅な改訂が行われた。

(参考資料)
・科学技術部HP 「科学技术进步法(中国語)

目次へ戻る▲

3. 百人計画 

1993年に制定された科学技術進歩法の第六章第43条に、国は外国に就労していた科学技術人材が帰国して近代化建設に参加し奉仕することを奨励する旨の規定が設けられた。この規定を念頭に中国科学院は、新たな世紀にわたり活躍する中堅人材やリーダーを育成するため、1994年に「百人計画:百人计划」を開始した。

当時、中国科学院の研究者の平均年齢は55歳に達していたが、文革の後遺症があって一流の研究リーダー、国際知名度のある若手研究者などが殆どいなかった。一方、1980年代初め頃から海外に出ていた中国の最初の留学生たちは、現地で学位を取得し、研究業績を積んでいた。このような背景を受けて、海外のハイレベル若手研究者を呼び戻し世代交代を目指したのが百人計画である。百人計画は中国最初の人材招致政策である。

当初の目標は、20世紀末までの約5年間で百名前後の海外ハイレベル人材を呼び戻し、中国科学院の各研究所にプロジェクトリーダーとして就任させることであった。このため、百人計画という名前が付けられた。百人計画の採択者には、一人あたり約2百万元(約3千万円)という海外と比べても劣らない研究スタートアップ資金を用意した。海外の多くの中国人研究者は、国の発展のため奉仕したいという真摯な気持ちから、この百人計画を歓迎した。その結果、1997年までの4年間で予想を上回る約800人の申請者が集まり、146人の若手研究者が百人計画の採択者となった。1998年からは、中央政府も資金出資を行うこととなり、百人計画は中国科学院だけでなく大学を含めた中国全体の人材招致政策となった。規模が拡大した百人計画は、人材招致政策の優れたモデルとなり、海外人材呼び戻しブームの起点となった。また、国内人材の招致もあわせて行われるようになった。

百人計画には、次の3つの大きな特徴がある。

  • 申請と審査プロセスおよびその結果は全て公表され、透明性、公平性が高かった。
  • 百人計画の審査と評価が単に論文、特許の数だけではなく、研究の内容、質と将来性を含む総合評価により採択された。
  • 個人だけではなく研究チームごとの招致を重視し、その結果中国科学院の30以上の研究チームが百人計画によって招致され、大きな研究成果がもたらされた。

百人計画は、2016年までに約2500名のトップレベル研究者の招致に成功し、当初の百人の予定を大幅に超えた。採択者の平均年齢(採択時)は37歳で、約9割は海外帰国者となり、当時の中国科学院の高齢化問題の解消という目標も達成できた。また現在100以上ある中国科学院の傘下の研究所のトップは、ほとんど百人計画による研究者となっている。

(参考資料)
・百度HP 『百人计划

目次へ戻る▲

4. 科学技術の進歩の加速について 

1995年5月、中国共産党中央と国務院は「科学技術の進歩の加速について:关于加速科学技术进步」を決定し、科学技術は第一の生産力で経済と社会発展の最も重要な推進力であり、我が国の近代化建設を実現するためには科学技術を発展させ、科学技術の進歩を加速させなければならないとして、科学教育興国の戦略を提唱した。

この決定の基本的な考え方は次の通りである。

現在、世界における科学技術の急激な発展は生産活動や生活様式を大きく変化させており、科学技術の実力は国力と国際的地位を決定する重要な要素である。改革開放以来、我が国は社会主義市場経済体制の中で科学技術の改革を推し進め、経済と社会の発展を支え、国際済競争に参画し得る実力を備え、科学技術の進歩を加速するための基礎を打ち立てた。

しかし我が国では、科学技術と経済の結合を阻害する要素が依然として多く存在している。これを打破し、我が国の国民経済を持続的、迅速かつ健全に発展させるには、科学技術を進歩させて第一の生産力とし、科学技術の成果を生産力へ転化させ、経済建設を確実に進めなければならない。そこで中国共産党中央と国務院は、科教興国(科学と教育により国を興す)戦略を実施することを決定した。科教興国とは、科学技術と教育を経済社会発展の重要な手段と位置づけ、国家の科学技術力を生産力に転化させ、全国民の科学技術素質を向上させ、国家の繁栄に導くことである。

科教興国戦略の実施に当たっては、次の原則を踏まえる必要がある。

  • 戦略目標、政策、体制、計画において、科学技術と経済を有機的に結合させる。
  • 科学技術体制の改革を深める。
  • 自主的な研究開発と海外の先進技術の導入をバランスよく進める。
  • 技術開発と成果普及、応用研究と基礎研究を合理的に展開する。
  • 世界の科学技術の動向と我が国の国情を勘案し、科学技術の目標を作成し、重点を強調し、大胆に実施する。
  • 知識を尊重し、人材を尊重し、人材を輩出する社会環境を創造する。
  • 研究開発と科学技術普及活動を結合し、科学技術と教育を結合する。

そして、具体的な対応として以下のものを実施する。

  • 農業・農村科学技術の推進
  • 工業科学技術の推進
  • ハイテク開発とハイテク産業の育成
  • 社会発展にかかわる科学技術の推進
  • 基礎的な研究の強化
  • 科学技術体制の改革の深化
  • 科学技術人材の育成と科学技術文化の醸成
  • 科学技術資金投入の多面的な拡大
  • 国際科学技術協力と交流の展開
  • 共産党と政府の指導の強化。

(参考資料)
・科学技術部HP 『关于加速科学技术进步

目次へ戻る▲

5. 全国科学技術大会での江沢民総書記の演説 

1995年5月、中国共産党中央、国務院は北京で全国科学技術大会を開催し、その大会の開会式で江沢民総書記は、概略以下のような演説を行った。

1978年、中国共産党中央は全国科学大会を開催し、鄧小平同志はその大会で科学技術は生産力、知識人は労働者階級の一部、四つの近代化の鍵は科学技術の近代化であるとする演説を行った。1985年、共産党中央は科学技術体制の改革に関する決定を発表し、科学技術体制の全面的な改革を始めた。十数年の改革の実践と発展の成功を経て、我が国の科学技術は歴史的な変化を遂げ、科学技術の実力とレベルは著しく高まり、経済社会の発展に貢献した。最近、共産党中央と国務院は「科学技術の進歩の加速について」を決定した。今回の大会を開催する主な目的は、全国民を動員し、科学技術を第一の生産力とする鄧小平同志の思想を確認し、これまでの共産党中央の決定を尊重し、全国で科教興国戦略を実施することである。この科教興国戦略により、科学技術により生産力をさらに発展させて経済建設を積極的に促進し、科学技術の進歩と労働者の質を向上させるつもりである。

(参考資料)
・科学技術部HP 『江泽民同志在全国科技大会上的讲话

目次へ戻る▲

6. 211工程

211工程は、「21」世紀へ向けて中国全土に「1」百余りの重点大学を構築することを目的とすることから名付けられ、国家発展改革委員会、教育部、財政部が共同で行ったプロジェクトである。

211工程は、1995年決定の「科学技術の進歩の加速について」で提案された科教興国戦略により正式に開始されたが、その構想と準備はそれより前に進められていた。1990年代の中国の高等教育は、グローバル化と知識経済化の進展を背景に、世界一流レベルの大学の構築を目指した重点大学の整備目標が模索された。1993年2月、中国共産党中央と国務院は、「中国教育改革発展綱要:中国教育改革和发展纲要」を公布し、中央と地方の力を結集して約百校の重点大学と重点学科および専攻を優先的に整備しなければならないと指摘した。この基本方針に基づき、国家教育委員会(現教育部)は1993年7月に「高等教育機関および重点学科の整備に関する若干の意見」を策定し、さらに科教興国戦略を受けて1995年に国務院は「211工程建設全体計画:211工程总体建设规划」を承認し、211工程が正式に始動した。

211工程の目標は次の3点である。

  • 21世紀に向けて百の大学と一部の重点学科において、教育の質、科学研究、大学の管理・運営効率を大幅に向上させる。
  • これらの大学において優秀な人材を育成し、経済社会の発展に貢献する。
  • 特定の大学の整備を重点的に進め、世界の教育、科学研究、人材育成の水準に接近させ、国際的に高い名声と地位を確立する。

第9次五か年計画期間 (1996年~2000年)中、211工程は99の大学で実施され、602の重点学科が設置されるとともに、全国高等教育公共サービス体制整備の拠点(中国教育とリサーチネットワーク、高等教育文献検索保障システムなどの建設を含む)が設置された。

さらに後述する第10次五か年計画期間 (2000年~2005年)中、107の大学で実施され、821の重点学科と全国高等教育公共サービス体制整備の拠点が設置された。211工程に必要な建設資金は、中央政府、関連当局、地方政府および大学が共同で協力して調達した。

2008年の国務院常務会議における「211工程建設の業績報告」によると、211工程が実施されて以来、中国の大学での人材育成の質と革新が向上した。また、大学の学科に顕著な成果が表れ、一部の学科が世界の先進的なレベルに近づいた。このように211工程は中国の高等教育全体の実力が著しく高めた。

2011年時点では、211工程に選定された大学は112校であった。1995年から2005年にかけて、211工程に投入された資金の総額は368億2600万元で、そのうち中央政府の財政支出分は78億4200万元であった。

(参考資料)
・学海荡舟HP 『国家计委、教委、财政部关于印发《“211工程”总体建设规划》的通知

目次へ戻る▲

7. 985工程

1998年5月、北京大学創立百周年記念式典に出席した江沢総書記は、「近代化を実現するために、中国は世界の先進レベルの一流大学を持つべきである」と提言し、「一流大学とは素質が高いイノベーション型の知識人材を育成する機関でなければならず、将来を見据えて客観的な真理を追求し、社会の諸問題を解決するための科学的根拠を提供する役割が求められる。また、一流大学は知識イノベーションや科学技術を実際の生産活動に応用するための重要な手段として活用される必要があるとともに、中国の優秀かつ特色ある文化を世界の先進文明と交流させるための架け橋となるべきである」と指摘した。

1999年、国務院は教育部が策定した「21世紀に向けた教育振興行動計画」を承認し、「国家の予算を集中的に投入して各領域の積極性を発揮させ、重点学科に取り掛かって予算の投入を拡大するべきである。若干の大学やすでに世界先進レベルに近づいた条件を備えている学科を優先的かつ重点的に整備することになり、一部の大学と重点学科は世界一流レベルに達するようになる」と示した。これによって「985工程」が始動した。なお、985とは、江沢民総書記が北京大学で演説した日時98年5月にちなむ名称である。

985工程では、北京大学、清華大学、中国科学技術大学、復旦大学、上海交通大学、南京大学、西安交通大学、浙江大学、ハルビン工業大学など34校が、第1期の支援対象として指定された。その大部分は、前記の211工程で国家の支援を受けてハイレベル大学への取り組みの実践を専攻して経験した重点大学であった。

2004年、教育部と財政部は共同で「985工程の継続推進に関する意見」を公布した。これにより985工程の第2期が始動した。第1期の成果を基盤とし着実な先進を積み重ね、さらに努力を継続して複数の世界一流大学の構築を目指すことを第2期の目標とした 。条件の整う機関、地方政府および企業が共同で資金を調達して985工程を構築するよう奨励した。2006年までに985工程指定大学は第1期と第2期を合わせ39校となった 。

2011年時点で、985工程に選定された大学が39校であった。1998年から2004年にかけて、985工程に投入された資金の総額は681億元で、そのうち中央政府は329億元を支出した。211工程に比べ、985工程の指定校はより限られており、より多くの資金が投入された 。

985工程に指定される大学は、元々中国のトップレベル大学であり、これらの大学が毎年授与した博士学位数は全国の半数を超えている。また、後述の競争的資金の配分計画である「973計画」の4割や、国家自然科学基金委員会(NSFC)の重点研究計画の5割近くがこれら985工程の大学に配分されている。さらに、50%近くの国家重点実験室が985工程大学に設置されている。

科学研究のアウトプットでも進捗が示されており、2001年にESIデーターベースに選ばれた985工程大学の学科は40個であったが、2008年には140学科がESIデーターベースに選ばれた。引用回数の比較でも、10大学の26学科が世界大学トップ100に入った。

(参考資料)
・百度HP 『985工程

目次へ戻る▲

8. 973計画

改革開放以降中国では、科学技術振興への競争的資金プロジェクトとして、国家科学技術難関突破計画、星火計画、863計画などが相次いで開始された。「国家重点基礎研究発展計画:国家重点基础研究发展计划」もその流れにある一つであり、科教興国戦略で基礎研究の重点プロジェクトに資金援助することにより、世界の最前線に追いつき、基礎研究の成果を転化して産業やイノベーションの発展を強化しようとするものである。朱鎔基首相により1997年3月に実施が決定されたことから、「973計画:973计划」と呼ばれる。国務院の科学技術部の所管である。

国家自然科学基金委員会(NSFC)によって行われている基礎研究を支援するプログラムは、研究者からのボトムアップ的発想から生まれる基礎研究を支援するのに対し、973計画は国家の戦略的ニーズを満たすため予め国が具体的な分野や達成目標を決定し、それに対して研究者が応募する形を取る。973計画の各プロジェクトは、2年間の研究開発後、中間評価を経て、さらに3年間研究開発を続ける。

973計画の戦略的重点領域としては、農業、エネルギー、情報、資源と環境、人口問題とヘルスケア、材料などの分野の重要なテーマに及ぶ。国の経済と社会の発展に重要な影響を及ぼすこれらの関連分野における先端技術の研究を奨励し、持続可能な社会・経済的発展のための強固な科学技術の基盤を築く。

「第10次科学技術イノベーション5カ年計画」期間中、973計画ではイノベーション能力を向上させるという基本的な方針の下で、以下の3つの任務を遂行するとしている。

  • 国家の社会的、経済的発展に資する研究を支援する。農業、エネルギー、ICT、資源と環境、ヘルスケア、材料などの分野における基礎研究を強化する。
  • 基礎研究のためのハイレベル人材やイノベーション能力を持つ要員を育成する。
  • 短期間で迅速な結果を追求することを避け、科学的な評価制度および管理システムを確立する。

973計画により10年間で18,000人の研究者が支援を受け、その中から中国科学院・工程院両院の院士は502名、国家傑出青年科学基金獲得者637人、中国科学院百人計画当選者140人、教育部“長江学者奨励計画”特別招聘教授242人が出ている。

なおこの973計画は、2016年に研究開発資金改革の一環で、863計画、国家科学技術支援計画、国際科学技術協力・交流特別プロジェクトなどと統合され、国家重点研究開発計画となった。

(参考資料)
・科学技術部HP 『国家重点基础研究发展计划(973计划)
・百度HP 『国家重点基础研究发展计划(973计划)

目次へ戻る▲

9. 国家科学技術奨励条例

1999年5月に、国務院は科学技術の進歩活動に貢献する科学技術者や組織を顕彰するため、「国家科学技術奨励条例:国家科学技术奖励条例」を施行した。本条例は、1993年6月に国務院が公表した「中華人民共和国自然科学奨励条例」および「中華人民共和国科学技術進歩奨励条例」が元になっている。この条例は、2003年12月、2013年7月、2020年10月に改正されている。

この条例の基本的な考え方は、科教興国戦略に沿って知識を尊重し人材を尊重することにある。この条例では、現在次の5つの国家科学技術賞が定められている。

  • 国家最高科学技術賞
  • 国家自然科学賞
  • 国家技術発明賞
  • 国家科学技術進歩賞;
  • 中華人民共和国国際科学技術合作賞

これらの国家科学技術賞は、科学技術における国家の最高賞であり、科学技術の進歩活動において突出した貢献をした公民や組織のために設立されたものである。受賞した科学技術者や組織は非常に名誉と栄誉に浴する。とりわけ最初の国家最高科学技術賞は、毎年2名の最高レベルの科学者に授与されるもので、日本の学術関係の文化勲章に相当する。これまでの受賞者では、ハイブリッド稲の発明者でウルフ賞受賞者である袁隆平氏や、マラリアの薬剤の発見者でノーベル生理学・医学賞受賞者の屠呦呦氏が有名である。

(参考資料)
・中国中央人民政府HP 「国家科学技术奖励条例

目次へ戻る▲

10. イノベーション、ハイテクの発展、産業化の実現に関する決定

1999年8月、中国共産党中央と国務院は「イノベーション、ハイテクの発展、産業化の実現に関する決定:关于加强技术创新,发展高科技,实现产业化的决定」を発表し、朱鎔基首相の改革路線に沿って中国の公的科研機関の企業化を推し進めることを強調するとともに、改革により配置転換を余儀なくされた多くの科学技術人材の受け皿として、イノベーション強化とハイテク企業振興を提唱した。

この決定では、概略以下の前文が付されている。

今日の世界では、科学技術が日進月歩しており、情報技術、バイオテクノロジーをはじめとするハイテク産業が急速に発展している。激烈な総合国力の競争の中で、イノベーションを加速し、ハイテクを開発し、そのハイテクにより商品化や産業化を進めることが、国家と経済を守る命脈となっている。新中国の成立から50年、科学技術は著しい進展を遂げ、社会主義近代化建設に顕著な貢献をしてきたが、科学技術の生産力に転化する能力やハイテク産業が依然として弱く、我が国の経済発展を制約する大きな障害となっている。そこで、科学技術の成果を転化させるメカニズムを抜本的に改革し、イノベーションを強化し、ハイテクを発展させ、産業化を実現することにより、我が国の経済と国力をさらに高め飛躍的な発展を実現させる。

そして、具体的な方策は次の通りとなっている。

  • 鄧小平同志の「科学技術は第一生産力」の考え方に沿って経済、科学技術、教育の改革を深化させる。
  • 政府は、国全体のイノベーション、ハイテク開発、ハイテク成果の産業化の方向と重点を示す。例えば、ICT、バイオ、新材料、エネルギー、宇宙航空、海洋等の分野で、知的財産権を有し競争力のあるハイテク企業を数多く形成する。
  • 企業のイノベーション能力を高め、イノベーションの主体になることを促進する。企業と大学、科学研究機関の連携を強化する。企業の科学技術投資を増加させる。
  • 国の応用型研究機関と設計機関を企業に転換させ、科学技術型企業として発展させる。その際、すでに企業に転換している国家経済貿易委員会所属の研究機関の経験を活用する。
  • 国家ハイテク産業開発区の建設を強化する。
  • 多様な形で民間科学技術企業の発展をサポートする。
  • 科学技術と応用や生産と消費の間における仲介機構を発展させる。
  • 財税支援、金融支援、人材管理制度改革、成果の転化奨励を実施する。
  • 科学技術の成果の評価と科学技術の奨励を進める
  • 知的財産権の管理と保護を強化する。

(参考資料)
・科学技術部HP 『关于加强技术创新,发展高科技,实现产业化的决定

目次へ戻る▲

11. 国家経済貿易委員会が管理する10の国家局所属の科学研究機関の管理体制の改革に関する意見

1999年4月、国務院の科学技術部、国家経済貿易委員会などは「国家経済貿易委員会が管理する10の国家局所属の科学研究機関の管理体制の改革に関する意見:关于国家经贸委管理的10个国家局所属科研机构管理体制改革的实施意见」を公表した。この意見は、国家経済貿易委員会が管理する内務貿易局、石炭局、機械局、冶金局、石油化学局、軽工局、紡績局、建材局、たばこ局、非鉄金属局の10の国家局に属する242の科学研究機関について、各局の全部または一部を科学技術型企業や技術サービス・仲介企業に転換することにより、研究開発の経済市場への役割を強化し科学研究機関の自己開発力を高めようとするものである。

このような意見が出された背景は、新中国建国後に導入された計画経済によって、公的研究機関に「親方日の丸」的な(鉄飯椀)体質が生まれ、研究開発の実施において非効率となっていた状況がある。このような状況は改革開放後も変わることはなく、公的な研究機関の評価は国内では低かった。そのため、応用型の研究機関を科学技術型企業や技術サービス・仲介企業に転換する変革が進められたものである。この意見の対象となっているのは国家経済貿易委員会所管の10の国家機関に所属していた242の科学技術研究機関であるが、これはモデル事業であり、その後も同様に他の国家機関に属する科学技術研究機関の企業化が進められた。

この意見に盛り込まれている内容は、概略以下の通りである。

  • 242の機関は、その全部または一部を科学技術型企業、技術サービス・仲介企業へ転換する。
  • 転換後の科学技術型企業は、社会主義市場経済のメカニズムに従い、経営自主権を有する。
  • 技術認証、検査、学位授与権などを国家から授権されていた科学研究機関は、企業への転換後も引き続き任務を引き受け、国家財政より必要な経費の支援を受ける。すでに承認された研究課題とプロジェクトは、引き続き予定通り実施できる。
  • 科学研究機関が民間に転換したことにより、職員の退職金や年金の支払いに不利とならないような措置が取られる。また転換後5年間は、企業所得税、技術譲渡収入の営業税、都市土地使用税などを免除される。
  • 国務院の科学技術部、国家経済貿易委員会は、改革に関する政策の執行状況を監督する。

(参考資料)
・科学技術部HP 『关于国家经贸委管理的10个国家局所属科研机构管理体制改革的实施意见

目次へ戻る▲

12. 科学研究機関の管理体制の改革の深化に関する実施意見

2000年5月、国務院は「科学研究機関の管理体制の改革の深化に関する実施意見:关于深化科研机构管理体制改革的实施意见」を公表した。

この意見は、前年4月に出された「国家経済貿易委員会が管理する10の国家局所属の科学研究機関の管理体制の改革に関する意見」によるモデル的な試行改革が、科学技術力の配置の調整に新たな突破があったと評価している。そのうえで、科学技術と経済の問題はまだ根本的に解決されておらず、科学研究機構管理体制の分割、分散、重複が存在する、人員が多すぎ効率が良くない、市場に向かうメカニズムが不完全であるなどの課題が依然として存在していると指摘した。そして前年8月に中国共産党中央と国務院より公表された「技術イノベーションの強化、ハイテク技術の発展、産業化の実現に関する決定」にしたがって、科学研究機関の管理体制の改革を深化させることを求めている。具体的には、国家財政の投入は急激な発展分野と高レベルの研究機関に集中させ、他の研究機関は民営化するか大学などの他の機関に併合する。

この意見の概要は次の通りである。

  • すでに企業化した国家電力会社、中国石油化工集団公司、中国石油天然気グループ会社、中国建築工程総公司、中国自動車工業総公司などの所属研究機関も、企業化する。
  • 建設部、鉄道部、交通部、情報産業部、医薬品監督管理局などの部門に属する技術開発機関は、自ら企業化するか他企業に合流する。
  • 国土資源部などに属する研究機関は市場向けの能力(全体の半分以上)を企業化し、公益性サービスを提供する研究機関は企業化する。
  • 財政部、文化部などの部門に属する社会科学(経済、文化、法律などを含む)分野の研究機関は、再配置によって改革を行う。
  • 中国科学院に所属する研究機関は、そのままとし改革を強化する。
  • 科学研究と教育の結合を強化し、様々な研究機関が大学に入ることを奨励する。

これらの改革を加速するため、国は様々な支援措置を講ずる。具体的には、

  • 先行的に実施した国家経済貿易委員会が管理する研究機構に対して講じられた、国有資本査定、税金徴収管理、養老保険などの優遇措置を同様に講じる。
  • 企業化した研究機構は人事制度、分配制度などの面で改革を行い、国家はそれに対して1人あたりの事業費を増加して投入する。また優れた研究プロジェクトに対して支援を強化する。
  • 大学と併合する場合で、1人あたりの事業費が基準を下回る場合、費用を補填する。

本意見による改革は、マーケットを志向した研究開発を行えるようになった、所管部門ごとに、地方ごとに異なった機関が重複していたのが効率的な配置が可能になった、開放、流動、競争、協力のメカニズムを確立することができるようになったなどと高い評価を得た。

(参考資料)
・科学技術部HP 『关于深化科研机构管理体制改革的实施意见

目次へ戻る▲

13. 国民経済・社会発展第10次五か年計画科学技術教育発展特別計画

2001年5月、国家計画委員会(現国家発展・改革委員会)と科学技術部は、「国民経済・社会発展第10次五か年計画科学技術教育発展特別計画:国民经济和社会发展第十个五年计划科技教育发展专项规划」を公表した。計画がカバーする期間は2001年から2005年までとなる。科学技術に関する五か年計画は従来、科学技術に関する中長期計画と国全体の国民経済・社会発展の五か年計画にしたがって立案されていたが、今回は依拠すべき中長期計画が無かったため、国全体の五か年計画の科学技術・教育に関する特別計画として立案された。

この計画の目標は次のとおりである。

  • 一部の基礎研究と戦略的ハイテク研究で、世界の最前線に接近するか到達する。
  • 研究開発費の対GDP比を1.5%以上とする。
  • 研究開発人員を90万人・年(フルタイム換算)以上とする。
  • 国際的な高いレベルの科学技術インフラを整備する。

開発にあたっての原則は次のとおりである。

  • 企業が技術開発の主体となり、産業発展の鍵となる技術を重点的に開発し、ハイテク産業の発展を推進する。
  • 大学と研究所の役割を十分に発揮させ、戦略的なハイテク研究と創造的な基礎研究を展開し、科学技術の持続的な創造能力を向上させる。

具体的なハイテク研究として次のものを挙げている。

  • 情報技術
  • バイオテクノロジー
  • 新しい材料技術
  • 高度な製造技術・自動化技術
  • エネルギー技術
  • 資源・環境技術
  • 航空宇宙技術

(参考資料)
・中国中央人民政府HP 『国民经济和社会发展第十个五年计划科技教育发展专项规划

目次へ戻る▲

14. 国家産業技術政策

2001年にWTO(世界貿易機関)への加盟が実現したことを受け、翌年6月、国務院の国家経済貿易委員会、財務部、科学技術部、国家税務総局は「国家産業技術政策」を公表して、科学技術の面から民間企業の支援を進めることとした。

この政策立案の背景として、WTOに加盟したことにより国内経済と国際経済はさらに融合し、中国の対外開放は新たな段階に入ったとの認識があった。世界において創新(イノベーション)の経済成長に対する貢献が大きくなり、先進諸国は重要な技術を駆使して国際的な市場で優位を保とうとしている。一方、中国の企業はWTOに加盟することで大きな圧力に直面しているが、国際分業に参加することによって産業技術の高度化が加速し、飛躍的な発展を実現するチャンスでもある。国内のイノベーション能力を高め、海外から先進技術を導入し、ハイテク産業化を加速し、競争力のある産業の発展に力を入れることが、国際競争に打ち勝つ重要な手段である。そこで、新たな情勢に対応した産業技術の戦略目標と重点を明確にし、イノベーション能力と産業技術を向上させ、産業構造を最適化するため、国家産業技術政策を策定したものである。

この政策では、中国の産業分野での技術開発、技術改造、技術導入を分析し、解決すべき課題を列挙した。具体的には、農業、鉄鋼、電力などの既存の産業の技術水準が低い、ハイテク産業の規模が小さく技術基盤が弱い、イノベーション能力が弱く技術導入の消化吸収能力が足りないという点である。今回のWTO加入を契機として、ハイテク産業を選択的に発展させ、国家経済の根幹にかかわる重点技術でのイノベーション能力を高め、知的財産権を確保するとともに、ハイテク技術を駆使して伝統的な産業の改革を促進し、産業構造の最適化を目指すとしている。

ハイテク技術の開発とその産業化を目指す分野は、情報通信、バイオテクノロジー、新材料、宇宙航空技術、新エネルギー再生エネルギー、海洋開発である。

本政策での具体的な措置として、イノベーションを促進する市場メカニズムの改善、オープンイノベーションシステムの構築、ベンチャーキャピタルの育成、産学研協力メカニズムの構築、イノベーションを支援するための財政・税制・金融政策の強化などを挙げている。

(参考資料)
・科学技術部HP 『国家产业技术政策

目次へ戻る▲