- 1. 1. 科学技術体制の改革の深化、国家創新体系の構築の加速に関する意見
- 2. 2. 国家重大科技基礎施設建設中長期計画(2012年~2030年)
- 3. 3. 国の科学研究項目資金管理改善・強化に関する意見
- 4. 4. 国の科学技術プロジェクトの管理改革深化に関する方策
- 5. 5. 中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)
- 6. 6. インターネット+
- 7. 7. 電気自動車の充電インフラ建設
- 8. 8. 大衆創業・万衆創新
- 9. 9. 次世代人工知能(AI)発展計画
- 10. 10. 全国科学技術イノベーション大会での習近平総書記の講話
- 11. 11. 国家創新駆動発展戦略綱要
- 12. 12. 国家科学技術イノベーション第13次五カ年計画(2016〜2020年)
- 13. 13. 双一流建設政策
1. 科学技術体制の改革の深化、国家創新体系の構築の加速に関する意見
習近平が総書記に就任する直前の2012年9月、中国共産党中央と国務院は「科学技術体制の改革の深化、国家創新体系の構築の加速に関する意見:关于深化科技体制改革加快国家创新体系建设的意见」を公表し、胡錦濤政権の政策を引き継いで「国家中長期科学技術発展計画綱要(2006~2020年)」を実施し、科学技術体制改革を深化させ、科学技術の経済・社会発展に対する役割を十分に発揮させることにより、国家創新体系の建設を加速させることを宣言した。この意見に従い、国務院の各部門は200件以上の政策文書を発表し、計画管理改革、院士制度改革、科学技術奨励制度改革などや、新時代における科学技術イノベーション政策の策定、科学技術イノベーション政策の実施と監督などの改革を進めた。
この意見の狙いの一つは、企業の科学技術イノベーション能力の強化である。江沢民政権や胡錦濤政権で、改革開放政策や国の機関の企業化などの抜本的な改革が進められてきた。しかし、中国の企業のイノベーション能力は他の先進諸国と比し依然として弱く、多くの分野で知的財産権を持つ核心的な技術が不足しており、企業はまだ研究開発費、科学研究組織、成果応用などの面で主体となっていないため、科学技術と経済の結合をより強め、企業のイノベーションを制約している障害を打破しようとするものである。
もう一つの狙いは、科学技術イノベーションを社会的なニーズに対応させようとするものである。前世紀末から今世紀初めにかけての急激な経済発展は中国を豊かにしたが、その一方で格差や環境汚染、食品の安全問題などが噴出してきた。そこで、国民の生活に関係する科学技術イノベーションを重視し、国民の健康、食品や薬品の安全性、防災・減災、生態環境と気候変動などにかかわる科学技術イノベーションを推進しようとするものである。
この意見は、習近平政権が江沢民政権や胡錦濤政権における改革開放政策を引き継ぎ、科学技術の面ではより「創新=イノベーション」を強調した創新駆動型発展戦略を進めていく端緒となった。
(参考資料)
・中央人民政府HP 『关于深化科技体制改革加快国家创新体系建设的意见』
2. 国家重大科技基礎施設建設中長期計画(2012年~2030年)
2013年2月、国務院は「国家重大科学技術基礎施設建設中長期計画:国家重大科技基础设施建设中长期规划(2012年~2030年)」を公表し、将来およそ20年間における中国の科学技術インフラ建設の重点を明らかにした。
2006年に策定された国家科学技術発展第11次五か年計画(2006年〜2010年)で、核破砕中性子源、強磁場装置など12の大型科学技術インフラがリストアップされた。これらインフラの整備によりハイテクの開発や国際交流が進んだが、他の先進諸国のインフラに比べ全体的な規模が小さい、数が少ない、技術レベルが低い、開放性や効率が低いなどの欠点が指摘されていた。
そこで、2012年9月に中国共産党中央と国務院が公表した「科学技術体制の改革の深化、国家創新体系の構築の加速に関する意見」で提唱された創新駆動発展戦略を進めるため、国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年~2020年)に沿って、この中長期計画が策定されたものである。そして、すでに2011年より実施中であった国家科学技術12次五か年計画(2011年〜2015年)に追加する形で、この中長期計画に提示されたインフラの建設が開始されることとなった。
今回の中長期計画では、次の16項目のインフラが新たに提示された。
- 海底観測ネットワーク
- 高エネルギー放射光施設
- 加速器駆動核変換システム
- 極限条件実験装置
- 大容量重イオン加速器
- 高効率・低炭素ガスタービン開発
- 高地宇宙線観測システム
- 未来通信ネットワーク実験システム
- 宇宙環境利用施設
- トランスレーショナル医療施設
- 南極天文台
- 精密重力測定装置
- 大型低速風洞
- 上海光源の改造
- 実験動物施設
- 数値地球シミュレータ
(参考資料)
・中央人民政府HP 『国务院关于印发国家重大科技基础设施建设中长期规划(2012—2030年)的通知』
3. 国の科学研究項目資金管理改善・強化に関する意見
2014年3月、国務院は「国の科学研究項目資金管理改善・強化に関する意見:关于改进加强中央财政科研项目和资金管理的若干意见」を公表した。
改革開放以来、中国政府による科学技術の資金投入は急速に増加したため、プロジェクトの配置が分散・重複し、管理が科学的かつ透明的ではなく、資金の利用効率を向上する必要があるといった解決すべき課題が現れてきた。このような課題の解決の方向性を示したのがこの意見である。
この意見の主たる内容は、次の点である。
- 科学研究プロジェクトと資金を統合・整理のうえで最適化し、決定過程の健全化を図るため、科学技術資金に関する管理情報システムを構築する。
- 科学研究プロジェクト管理を分類化する。具体的には、基礎先進科学はオリジナリティを優先し、公益的科学研究は社会の重大ニーズに注目し、市場誘導型プロジェクトは企業を主体にし、国家重大プロジェクトは国のニーズに応える。
- 科学研究プロジェクトの管理手順を改善する。
- 科学研究プロジェクトの資金管理を改善する。
(参考資料)
・中央人民政府HP 『国务院关于改进加强中央财政科研项目和资金管理的若干意见』
4. 国の科学技術プロジェクトの管理改革深化に関する方策
2014年12月、国務院は「国の科学技術プロジェクトの管理改革深化に関する方策:关于深化中央财政科技计划(专项、基金等)管理改革方案」を公表した。これは同年3月に公表された前記の「国の科学研究項目資金管理改善・強化に関する意見」を受けて、科学技術部と財政部が国務院の他の関係部局と専門家の意見を調整し、共同で策定したものである。
この実施方策の一点目は、これまでに実施されてきた多くの計画やプロジェクトを、次の5つのカテゴリーに統合したことである。このうち、3番目のカテゴリーに属する資金援助がこれまで100件近くと多く、これが統合され効率化されることとなる。
- 国家自然科学基金委員会(NSFC):基礎研究と先端科学研究に資金を提供する。
- 国家科学技術重大特定プロジェクト:国家の戦略目標や戦略産業に注目し、国を挙げて実施するプロジェクトを支援する。
- 国家重点研究開発計画:国家の計画や国民生活に関連する農業、エネルギー資源、生態環境、健康などの分野における、戦略的・基礎的・先進的な研究開発を支援する。
- 技術イノベーション導入特別プロジェクト(基金):市場メカニズムによって科学技術イノベーション活動を牽引し、科学技術成果の転化、資本化、産業化を促進する。
- 基地・人材特別プロジェクト:構成を最適化し、科学技術イノベーション基地の建設とイノベーション人材養成を助成する。
二つ目は運用体制である。重複の排除、運用の効率化などを目的として、以下のように運用体制の再構築が進められることとなった。
- 部門間連絡会議(部際聯席会議)の設置:科学技術部をはじめとして、財政部、国家発展改革委員会などの関係部門が参加した連絡会議を設置し、国の中長期計画や五か年計画などとの関連性、プロジェクトや基金の制度設計、重点任務と指導などを審議する。
- 国家科学技術管理情報システム(国家科技計画申報中心、日本のe-Rad)の設置:従来の各部局への資金申請を政府機関共通の電子システムを用いての申請、管理に一元化された。
- 研究資金専門管理機関の設置:国家重点研究開発計画を中心として、国の認定を受けた研究基金専門管理機関が設置され、申請された各プロジェクトの審査から管理運営までを行っている。現時点では科学技術部傘下に 4 つ、工業情報化部、農業農村部と国家衛生健康委員会の傘下にそれぞれ 1 つ、計 7 つの研究資金専門管理機関がある。
なお2018 年 3 月に発表された国務院内の再編により、これまで国務院直属の機関であった国家自然科学基金委員会は、科学技術部の傘下に入ることになった。これにより、中央政府を財源とする競争的資金プログラムの大半が科学技術部の傘下に入る形となった。
(参考資料)
・中央人民政府HP 『国务院印发关于深化中央财政科技计划(专项、基金等)管理改革方案的通知』
5. 中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)
2015年5月国務院は、強力な産業政策である「中国製造2025:中国制造2025(Made in China 2025)」を公表した。
この中国製造2025の基本的な認識として、現在世界の製造業は、3D印刷、サイバーシステム、クラウドコンピューティングなど新世代の情報技術との連携・統合により、新しい生産方法、産業形態やビジネスモデルなどにより広範囲にわたる変化の真っ只中にある。中国の製造業は建国以来持続的に成長してきたが、世界の最先端と比べれば規模が大きいもののまだ強いとはいえず、自主的イノベーション能力、産業構造、情報化、品質、生産効率などで大きく後れを取っている。建国百年を迎える2049年までに、中国を世界の製造業の発展を率いる製造強国へと発展させ、中華民族の偉大な復興という「中国の夢」の実現を目指すというものである。
中国製造2025では、次の三段階で製造強国の実現を図るとしている。
- 第一段階:2025年までに世界の製造強国の仲間入りをする。
- 第二段階:2035年までに世界の製造強国の中等レベルに到達させる。
- 第三段階:2049年までに世界の製造強国の先頭グループに入る。
中国製造2025では、次の10分野の産業を優先分野として列記している。
- 新世代の情報技術
- ハイエンドCNC工作機械およびロボット
- 航空宇宙
- 海洋工学およびハイテク船舶
- 高度な鉄道輸送
- 省エネと新エネルギー自動車
- 電力機器
- 農業機械
- 新しい材料
- 〇生物医学および高性能医療
(参考資料)
・中央人民政府HP 『中国制造2025(Made in China 2025)』
6. インターネット+
2015年7月、国務院は「インターネット+の積極的な推進に関する指導意見:关于积极推进“互联网+”行动的指导意见」を公表した。
「インターネット+」は、インターネットを経済・社会の様々な分野と統合し、技術の進歩、効率の改善および組織改革を促進してイノベーション力を高めることである。中国の有するインターネットの比較優位を活用し、「インターネット+」の開発を加速することにより、イノベーションシステムの再構築、イノベーションの活力の刺激、公共サービスモデルの革新を目指すものである。
具体的なアクションとして、現代農業、スマートエンルギー、金融、物流、電子商取引、交通、人工智能などの分野におけるインターネットを駆使した新しいサービスモデルの構築を挙げている。
(参考資料)
・中央人民政府HP 『国务院关于积极推进“互联网+”行动的指导意见』
7. 電気自動車の充電インフラ建設
2015年10月、国務院の弁公庁は「電気自動車の充電インフラ建設の加速に関する意見:关于加快电动汽车充电基础设施建设的指导意见」を公表した。
この意見は、電気自動車の開発を次世代自動車の戦略的な目標とし、これを支えるため2020年までに500万台の容量を有する高効率充電インフラシステムを構築するとしている。
(参考資料)
・中央人民政府HP 『国务院办公厅关于加快电动汽车充电基础设施建设的指导意见』
8. 大衆創業・万衆創新
2015年6月,国務院は「大衆創業万衆創新の推進に関する意見:关于大力推进大众创业万众创新若干政策措施的意见」を公表した。
この意見は、多くの人が創業し(大衆創業)、多くの人がイノベーションに携わる(万衆創新)ことについて、政府が支援することを目指すものである。
具体的な措置として、科学技術イノベーション体制の改革、財政・税制政策の優遇、金融市場の活性化、ベンチャーファンドの拡大、創業サービスの強化、都市や農村における創業ルートの開発、研究者に対する創業の奨励などを挙げている。
(参考資料)
・中央人民政府HP 『国务院关于大力推进大众创业万众创新若干政策措施的意见』
9. 次世代人工知能(AI)発展計画
2017年7月、国務院は「次世代AI発展計画:新一代人工智能发展规划」を発表した。
元々人工知能(AI)にかかわる技術の開発は、「国家科学技術創新第13次五か年計画(2016〜2020年)」の中の「産業技術の国際競争力の向上」で、破壊的イノベーション技術という項目に分類され注目されていた。その後、世界でAI技術にかかわる開発が急速に進み、国民経済および社会への大きな波及効果が認識されるようになった。そのため、中国共産党中央委員会は先駆けてAI技術を推進しなければならないと指示した。この指示を受けて、科学技術部、国家発展改革委員会および中国工程院などが共同で「次世代人工知能発展計画」を策定し、単なる5か年計画の一領域から国家戦略に昇格させたものである。
同計画では、「3つの段階と目標が示されている。
- 第一段階(~2020年)
- 人工知能の全体的な技術水準と応用能力が世界トップレベルの国々と併走する
- 人工知能関連産業が経済成長の新しいエンジンとなる
- 人工知能技術が国民生活水準を改善する新しい手段の一つになる
- 第二段階(~2025年)
- 人工知能の基礎理論におけるブレークスルーを実現する
- 一部の人工知能技術および応用能力は世界をリードする
- 人工知能技術は産業構造転換および経済発展方式転換の原動力となる
- スマート社会に向けて新しい進展を実現する
- 第三段階(~2030年)
- 人工知能の基礎理論、技術および応用能力が世界をリードし、人工知能技術に基づいたイノベーションのハブの1つになる。
次世代人工知能技術の推進にあたり、「オープン的・共同的人工知能科学技術体系の構築」「スマート経済の創出」「安全で快適な社会の実現」「デュアルユースの推進」「安全且つ高効率スマートインフラの完備」「次世代人工知能技術プロジェクトの実施」などの柱において、重点的に取り組もうとしている。
(参考資料)
・中央人民政府HP 『国务院关于印发新一代人工智能发展规划的通知』
10. 全国科学技術イノベーション大会での習近平総書記の講話
2016年5月、全国科学技術創新大会に出席した習近平総書記は講話を行った。この講話は、それまでの数度にわたる「創新駆動発展戦略」の提唱を踏まえ、直前に発表された「国家創新駆動発展戦略綱要」の実施を高らかに宣言するものであった。講話に出てくる3段階の目標を示す「三歩走」という言葉を使い、三歩走戦略を示したものであるとも言われる。
習近平総書記の講話は、概略以下の通り。
5000年以上にわたる歴史の中で、中華民族は「火薬、羅針盤、印刷術」という科学技術の成果を創造した。さらに新中国の成立以来、特に改革開放以来のたゆまぬ努力を経て、我が国の科学技術の発展は偉大な成果を収め、科学技術力は持続的に向上している。高速鉄道、月探査機「嫦娥」、世界最速スパコン「天河2号」など、我が国は重要な分野で世界の先進的な国の仲間に入った。
我が国は経済大国となったが、経済が大きいだけで強国とはいえない。科学技術の発展は民族の興隆であり、強国への道である。科学技術イノベーションは生産力と国力を高める戦略的な基礎であり、我が国の発展は自力によるイノベーションに頼らなければならない。
我が国は、三段階の目標で科学技術イノベーション強国とならねばならない。2020年までに我が国をイノベーション型の国家に仲間入りし、2030年までに我が国をイノベーション型の国家の前列に入らせ、新中国成立後100年に当たる2049年までに我が国を世界の科学技術イノベーション強国とする。
この目標を実現するため、次の5つの方策を実施する。
- オリジナリティを重視し、基礎的な科学技術を強化し、重要な科学技術領域で世界の先頭に立つ。
- 科学技術を戦略的に推進し、新しい科学技術の課題を解決する。
- 科学技術が経済や社会の発展を支える原動力であることを再認識し、社会科学的な課題解決への努力を強化する。
- 科学技術体制の改革を深化させ、活力に満ちた管理・運営メカニズムを形成する。
- 知識と才能を敬い、イノベーションの発展を進める人材を育成する。
(参考資料)
・中国新華網HP 『习近平:为建设世界科技强国而奋斗』
11. 国家創新駆動発展戦略綱要
2016年5月20日、中国共産党中央と国務院は、「国家創新駆動発展戦略綱要:国家创新驱动发展战略纲要」を公表した。この綱要は、2006年の国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年~2020年)を基礎とし、2012年の中国共産党全国代表大会での「創新駆動発展戦略の提唱」を踏まえて作成された中長期的な計画である。本綱要は、2050年までを見据え、2030年までの15年間をカバーする中長期戦略であり、2006年の綱要を基本的に踏襲しつつ、その後の世界や中国国内での経済社会の状況を踏まえて若干の修正を加えようとするものであり、2006年の綱要は依然として有効である。
この綱要は、中国の経済の進展、科学技術の発展、ハイテク企業の増加などを踏まえ、より一段と科学技術イノベーションへの投資を強化することにより、建国後100年で中国を科学技術イノベーション大国に押し上げ、中国の夢を実現しようとしており、この前後に打ち出された様々なハイテク産業戦略のベースとなっている。
以下に、2006年綱要との対比において、今回の綱要の要点を見たい。
- 具体的戦略目標
まず戦略目標であるが、2006年綱要では、目標に以下の記述がある。
・基礎科学と最先端技術の研究における総合力を高め、世界に影響をもたらす研究成果を複数上げ、創新型国家の仲間入りを果たし、今世紀中葉に科学技術強国になるための基盤を固める。
これが、今回の目標では、以下の記述となっている。
・第一段階:2020年までに創新型国家の仲間入りを果たし、小康社会の建設を目標とする。
・第二段階:2030年までに創新型国家の上位に食い込み、経済・社会を発展させ、国際競争力を向上させ、経済強国および共同富裕社会の建設の基礎を固める。
・第三段階:2050年までに世界に冠たる科学技術創新強国となり、世界の科学技術の中心およびイノベーションの先導者となり、中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現する。 - 国家科学技術重大特定プロジェクト
ナショナルプロジェクトの位置づけである国家科学技術重大特定プロジェクト(National Science and Technology Majer Project)」は、2006年の綱要で13個のプロジェクトが取り上げられ、その直後に公表された第11次五か年計画でより具体化された。2008年から実施され、2011年の第12次五か年計画においても継続されている。
今回の綱要では、2006年綱要の13個のプロジェクトを継続して実施することと併せ、2030年に向けての新たなプロジェクトとして、次のものを例記し、内容の検討実施を促している。
・航空エンジンとガスタービン(できるだけ早期に実施)
・量子通信
・情報ネットワーク
・知能製造とロボット
・深宇宙深海探査
・重点新材料と新エネルギー
・脳科学
・健康医療 - 産業技術重点領域
2006年綱要では、将来の課題に対応し経済と社会の発展を導く創新能力を高めるため、バイオテクノロジー、情報技術、新材料技術、先進製造技術、先進エネルギー技術、海洋技術、レーザー技術、航空宇宙技術の8つの先端技術領域を選定している。今回の綱要では、2030年に向けての産業技術重点領域として、次の10の技術領域を特定している。
・次世代ICT技術
・スマート・グリーン製造技術
・先端農業技術
・先端エネルギー技術
・資源の効率的利用および環境保護技術
・海洋および宇宙技術
・スマートシティ・デジタル社会技術
・ヘルスケア技術
・先端サービス技術
・産業変革技術
(参考資料)
・中国人民網HP 「中共中央国务院印发《国家创新驱动发展战略纲要》」
12. 国家科学技術イノベーション第13次五カ年計画(2016〜2020年)
2016年7月、国務院は「国家科学技術創新第13次五か年計画:“十三五”国家科技创新规划(2016〜2020年)」を公表した。この計画は、中国全体の「国民経済社会発展第13次5か年計画要綱」の個別分野の計画として、さらに同年5月に公表された「国家創新駆動発展戦略要綱」および2006年の「国家中長期科学技術発展計画要綱(2006~2020年)」に基づき作成されたものである。
従来の5か年計画のタイトルと異なり、初めて科学技術に加えて「創新=イノベーション」の文字が追加された。このことは、科学技術と経済、科学技術とイノベーションを結合させ、研究・開発から産業化・ノベーション創出までの全過程を視野に入れた計画であることを強調している。
- 目標
直前に発表された国家創新駆動発展戦略要綱の最初の5年間をカバーするもので、2020年までにイノベーション能力を世界15位までに引き上げ、イノベーション型国家の仲間入りを果たすとしている。このほか、中国全体の研究開発費の対GDP比 を2.1% から2.5%に引き上げること、中国全体の就業者人口1万人あたりの研究者数を48.5人から60人に引き上げること、国際科学論文被引用回数で世界4位から2位に引き上げることなどの目標を設定した。 - 戦略ミッション(6項目)
・イノベーションの先発優位を形成することに向けて、直近と将来を兼ね備えた重大な戦略的布石を打つ。
・創造的イノベーションの能力向上に向けて、重要な戦略的イノベーション人材を育成する。
・国内・海外拠点全体を統合的に適宜調整しながら、イノベーション拠点を充実させる。
・「大衆による創業・民衆によるイノベーション」を推進し、創業・イノベーションへ寄与する良い環境を構築する。
・イノベーション創出と成果移転の障害となる制度を廃止し、科学技術体制の改革を全面的に深化させる。
・イノベーションを支える国民・社会による基盤を突き固め、科学普及やイノベーションの文化づくりを強化する。 - 改革措置(3項目)
・イノベーションにかかわる政策法令を整備・施行する
・科学技術イノベーション支援メカニズムを充実する
・計画の実施・管理を強化する - 具体策(6項目)
・活気に溢れるイノベーターの育成
・ハイレベルなイノベーション拠点の配置
・ハイレベルなイノベーション成長モデル地域の形成
・オープン協同イノベーションネットワークを構築
・現代的なイノベーションガバナンスメカニズムの確立
・イノベーションに適した研究環境の整備 - 重点領域(5項目)
・重大科学技術プロジェクト:具体的には、大型航空機エンジンおよびガスタービン、深海ステーション、量子通信と量子コンピュータ、脳科学と脳模倣知能研究など。
・産業技術の国際競争力の向上:具体的には、先進バイオ研究、次世代情報通信技術、先進製造技術、新材料技術、AIなど破壊的イノベーション技術など。
・国民生活水準の向上と社会課題の解決:具体的には、環境・生態系保全技術、資源の効率的利用技術、国民福祉に資する技術など。
・国家安全・国益にかかわる技術:具体的には、海洋資源利用技術、宇宙探査・宇宙開発技術、超深地層開発技術など。
・基礎研究の強化:具体的には、医学・免疫学、合成生物学、極限環境(大電流・強磁場・超高温・超低温)技術、統合的モニタリング研究、新材料設計・製造技術など。
(参考資料)
・中央人民政府HP 『国务院关于印发“十三五”国家科技创新规划的通知』
13. 双一流建設政策
中国では大学重点化政策として、これまでに211工程(1995年)と985工程(1998年)が実施され、高等教育のレベルを高めてきた。しかし、対象大学の限定的である、特色や特徴が後退している、地域間の不均衡が存在するなどの課題が浮かび上がり、これらの課題に対応するため、新たな政策をとる必要が生じてきた 。
2014年5月、習近平総書記は北京大学で開催された座談会で、「共産党中央は世界一流大学の建設戦略を策定した。中国の特色ある世界一流大学を構築するべきである。外国のモデルや経験をそのまま真似すれば、優秀な一流大学を成功して建設することができない。中国には、ハーバード大学、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学、オクスフォード大学、ケンブリッジ大学などといった世界トップレベルの大学がまだないが、北京大学、清華大学、浙江大学、復旦大学、南京大学など実力のある大学がある。先進的な大学の経験を参考にし、中国に定着して大学を建設すべきである」と指摘した 。
2015年8月、習近平総書記をヘッドとする中国共産党中央の全面深化改革領導小组は、「世界一流大学と一流学科の建設を統合的に推進する全体企画案:统筹推进世界一流大学和一流学科建设总体方案」を了承し、同年10月国務院は同企画案を公布した。これにより、211工程や985工程など過去の成果を踏まえ、国際競争力を向上させ、世界一流大学と一流学科(双一流)の建設を推進する、双一流建設政策がスタートした。
双一流建設に関しロードマップは次の通りである。
- 2020年までに、若干の大学および学科が世界一流の仲間入りをし、若干の学科が世界トップクラスになる。
- 2030年までに、さらに多くの大学および学科が世界一流に到達し、若干の大学は世界トップクラスになり、より多くの学科が世界トップクラスになり、高等教育レベルが大幅向上する。
- 2050年までに、一流大学および一流学科の数は世界のトップクラスになり、高等教育の強国になる。
上述の目標を実現するために、以下の四つの基本方針が決められている。
- 世界一流を目標とする。:世界一流の大学の建設と世界一流の領域(学科)の形成を目標とし、優れた教育資源と研究資源を統合し、世界一流の人材の育成、研究成果の開発を目指している。
- 研究領域の強化を手段とする。:各大学の研究領域を最適化させ、大学の状況に合わせた研究領域に重点をおいて発展させる。つまり、各大学の研究領域の重複を避け、それぞれの大学でユニークな研究領域を形成させる。
- 評価システムを確立する。:モチベーションの向上と監督制度を設立し、目標管理を強化し、しっかりした評価システムを構築する。
- 大学改革を原動力とする。:大学の発展を制限する古い制度を改革し、中国の特色のある現代大学制度、研究領域の発展に資する制度を樹立する。
中国政府は、2016年に「人材育成」、「科学研究(基礎研究、応用研究、人文社会研究」、「社会への貢献(産学連携を含む)」、「中国文化の伝承」、「教員・研究者の質」、「国際交流」を評価し、42の「一流大学」と465の「一流学科」を指定した。最初の期間は5年間で、現在実施中である。
(参考資料)
・中央人民政府HP 『国务院关于印发统筹推进世界一流大学和一流学科建设总体方案的通知』