第8回 華中科技大学
1. はじめに(概要)

・華中科技大学は、湖北省武漢市にある総合大学である。
・同大学の工学系の学科などは新中国建国後に出来たが、医学部である華中科技大学同済医学院は、古い伝統を有する。
・武漢市には前回紹介した武漢大学があり、両校は総合大学として競い合っている。武漢大学は理系、文系、医学系で比較的バランスが取れた大学であり、華中科技大学は工学系(特に機械、電気、土木建築)と医学系に強い大学である。
2. 名称と所管
(1)名称
・日本語表記 華中科技大学
・中国語表記 华中科技大学 略称 华中大、华科大
・英語表記 Huazhong University of Science and Technology HUST
なお、「華中」とは中国を大きく7つの地域に分割した地名であり、湖北、湖南、河南の三省を指す。
(2)所管
国務院教育部の直轄大学である。
3. 本部の所在地
華中科技大学の本部は、湖北省武漢市にある。詳しくは、こちらの武漢大学の記述を参照されたい。
4. 規模
(1)学生数
・学部学生数29,456人(中国主要大学中20位 2022年)
中国1位・鄭州大学(47,000人)、東京大学(13,962人)、ハーバード大学(約6,700人) 詳しくはこちらを参照。
・大学院生数 26,137人(中国主要大学中9位 2022年)
中国1位・中国科学院大学(57,375人)、中国2位・清華大学(38,783人)、東京大学(約13,341人)、ハーバード大学(約15,200人) 詳しくはこちらを参照。
(2)教員数
・専任教師数 3,700人(中国主要大学中10位 2022年)
中国1位・吉林大学(6,506人)、東京大学(約4,000人)、ハーバード大学(約2,400人) 詳しくはこちらを参照。
(3)予算額
・予算経費 129.84億元(約2,500億円)(中国主要大学中12位 2022年)
中国1位・清華大学(約6,900億円)、東京大学(約2,600億円)、スタンフォード大学(約6,500億円) 詳しくはこちらを参照。
(4)キャンパス
華中科技大学は武漢市洪山区(武昌地区)に本部とメインキャンパスがあり、医学部である同済医学院は礄口区(漢口地区)にある。
(5)学部
華中科技大学は、政府の教育部が定めている12の大分類(日本の大学の学部に相当)のうち、哲学、経済学、法学、教育学、文学、歴史学、理学、工学、医学、管理学、芸術の大分類を有しており、無い大分類は農学のみで総合大学と言える。ただし、国内的に高いレベルにあるのは、工学系と医学系である。これは、次項で述べる同大学の沿革に関係している。
5. 沿革
華中科技大学は2000年に、華中理工大学、同済医科大学、武漢都市建設学院という3つの大学が合併して発足した。これら3つの大学の沿革を述べる。
(1)華中理工大学
華中理工大学は、1952年に設立が決定された華中工学院が前身であり、比較的新しい。中華人民共和国の建国に際し、国家建設を担う技術者の大量養成のために実施された院系調整政策により、近隣の武漢大学、湖南大学、広西大学、南昌大学、華南理工学院の機械工学と電気工学に関係する学科を分離して設置されたのが、華中工学院である。武漢市内武昌に新たなキャンパスが建設され、1954年に開校した。その後華中工学院は1988年に、華中理工大学に改称した。
(2)同済医科大学
同済医科大学は、1907年にドイツと中国が上海に設立した上海德文医学堂が前身であり、設立時には医学とドイツ語を教えた。1908年、同済德文医学堂と改称した。1912年には工学部を設置し、1917年には第一次世界大戦でのドイツ敗北によりドイツの関与はなくなったが、中国政府が大学の存続強化を進め、理学部、法学部などを設置し総合大学「同済大学」になっていった(別途同済大学の項で述べる)。
新中国建国後の1951年に、中国の中部南部地区にある湖南省、湖北省、広東省、広西省、河南省、江西省の医療・健康サービスを支援するとの中央政府の方針に従い、同済大学医学院と付属の同済病院は上海から武漢に移転し、元々武漢市内にあった武漢大学医学院と合併して中南同済医学院となった。その後、1955年にと武漢医学院に、さらに1985年には、同済医科大学に改称した。
(3)武漢都市建設学院
武漢都市建設学院の母体は、中南建築工程学校という専門学校である。1952 年、新中国の建国後の都市建設で建築・土木技術者が必要であったため、近隣の 6 つの専門学校を合併させ、武漢市武昌に中南建築工程学校を設置した。1960 年に、武漢都市建設学院に改名した。
(4)華中科技大学の発足
2000年に、華中理工大学、同済医科大学、武漢都市建設学院が合併し、華中科技大学としてスタートすることになった。以上の経緯から見て、華中科技大学は工学(特に機械、電気、建築土木)に秀でた大学である。
6. 現在の指導部
(1)学長
現学長の尤政(ゆうせい)は、1963年江蘇省生まれで、現在の華中理工大学機械工学科大学院を卒業し、1990年に博士号を取得した。その後、清華大学でポスドク研究を行った後、母校の教員となった。1998年には、英国サリー大学宇宙センターの客員研究員となった。2015年から華中科技大学副学長を務めた後、2021年に学長となった。専門は、AIナノシステム工学と宇宙への応用である。2013年に中国工程院院士に当選している。
(2)共産党委員会書記
共産党委員会書記の李元元は、1958年に広東省に生まれ、文化大革命中に下放を経験している。1982年に湖南大学鋳造学科を卒業し、同大学の教員となった。その後1987年に華南理工大学の教員となり、2003年には同大学の学長に就任した。2011年には、吉林大学の学長に転じ、さらに2018年には華中科技大学の学長に就任した。2021年から華中科技大学の党委員会書記に転じた。専門は、粉末冶金、材料加工工学であり、2013年に中国工程院院士に当選している。
7. 学問分野の特色
武漢大学は、工学と医学が強い大学である。具体的な指標で見たい。
(1)双一流学科建設
中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流政策)を開始した。2022年に改訂された双一流学科建設において、華中科技大学は全体で以下の9学科が選定されている。これを見ると、人文社会系や理学系の学部学科はあるが、一流と評価されるのは工学系と医学系に限られている。
○工学系(6) 機械工学、光学工学、材料科学・工学、動力工学・工程熱物理、電気工学、計算機科学・技術
○医学系(3) 基礎医学、臨床医学、公衆衛生・予防医学
(2)国家重点実験室
華中科技大学には、以下の4か所の国家重点実験室がある。中国の大学で最も多いのは、清華大学の13か所である。各大学別の実験室数はこちらを参照。
・石炭燃焼
・材料成形・金型技術
・デジタル製造・装備技術
・強電磁工学・新技術
(3)NSFC面上項目予算獲得
日本の科研費に近い予算として、国家自然科学基金委員会(NSFC)が所管する面上項目予算がある。この予算をどの程度獲得するかで、当該大学の研究能力を判定しうる。2019年で華中科技大学は中国全体で5位である。詳しくはこちらを参照。
(4)附属医院
華中科技大学同済医学院のHPによれば、2022年現在で、武漢協和医院、同済医院、梨園医院の3つの直属医院、武漢中心医院、武漢中西医結合医院、武漢小児医院、湖北癌医院、武漢金銀潭医院、武漢精神衛生センター、湖北母子保険院の7つの非直属医院がある。
8. 学問的な成果と国際的な評価
(1)SCI論文数と被引用数
クラリベートアナリティックス社のSCIのデータによると、2022年5月までの過去10年間の論文数が75,012編、被引用数が1,303,442で、被引用数での世界順位が122位、中国大学での被引用数順位が8位である。詳しくはこちらを参照。
(2)ネイチャーインデックス
ネイチャーインデックス(Nature Index)は、世界トップクラスの科学誌・学会誌に掲載された論文数をカウントし、国・機関別に分析した指標である。このネイチャーインデックス2022によると、華中科技大学の論文数(分数カウント)が198.26編であり、世界順位が60位、中国大学での順位が17位である。ちなみに、世界1位は中国科学院(1,963.00編)で、中国大学1位は中国科学院大学(世界8位、530.20編)、日本1位は東京大学(世界14位、447.54編)である。詳しくはこちらを参照。
(3)中国国内の評価
中国国内では大学のランキング評価が盛んである。華中科技大学は、教育部の2022年のランキングで8位(1位は清華大学、詳しくはこちらを参照)、中国校友会2022でのランキングで5位(1位は北京大学、詳しくはこちらを参照)である。
(4)国際的な大学ランキングでの評価
華中科技大学は、QS国際ランキング2023では世界306位、中国国内15位であり(詳しくはこちらを参照)、Times Higher Education(THE)国際ランキング2022では世界181位、中国国内10位である(詳しくはこちらを参照)。日本の東京大学は、QSで世界23位、THEで世界35位である。
(5)中国校友会傑出学術人材ランキング
中国校友会は各大学の卒業生の中で、中国科学院院士、中国工程院院士、中国社会科学院学部委員、主要な科学技術賞受賞者、大学の学長、著名な医師などの数を指標としたランキングを毎年公表している。このランキングで華中科技大学は、中国国内9位である。詳しくはこちらを参照。
9. 国際性
(1)留学生
外国からの留学生は、2019年時点で2,326名である。中国大学トップは北京大学の6,857名であり、他国の有力大学と比較すると、東京大学が4,623名、ハーバード大学が6,228名、カリフォルニア大学バークレー校が10,695名である。詳しくはこちらを参照。
(2)他国の大学等との協力
現在、ドイツ、フランス、英国、米国など、世界86か国の500以上の大学や機関と協力関係にある。また、世界155か国からの留学生を受け入れている。
(3)日本との協力
日本では、会津大学、日本工業大学、神奈川大学、九州大学、東北大学と交流協定を結んでいる。
(4)華中科技大学中欧クリーン再生可能エネルギー学院
中国とEUは、2013年に華中科技大学のキャンパスに、華中科技大学中欧クリーン再生可能エネルギー学院(华中科技大学中欧清洁与可再生能源学院)を設立し、華中科技大学、武漢理工大学及び欧州のフランス、スペイン、ギリシャ、英国、イタリアの7つの大学が同学院を運営している。太陽エネルギー、風力エネルギー、バイオマスなどのクリーンで再生可能なエネルギーの分野における教育や研究を行っている。

参考資料
・华中科技大学HP https://www.hust.edu.cn/
・华中科技大学同济医学院HP http://www.tjmu.edu.cn/xkjs/bsd.htm
・华中科技大学中欧清与可再生能源学院HP http://icare.hust.edu.cn/
・百度HP
・中国版Wiki