第9回 四川大学

1. はじめに(概要)

四川大学正門 四川大学HPより引用

・四川大学は、四川省成都市にある総合大学である。

・成都市は、中国西南部の交通の要衝であり、農業、商業、工業の重要都市であることもあって、四川大学も中国国内の有力大学として発展してきた。

・中国西南部にある大学で、このコーナーで唯一取り上げる大学である。中国西南部は、新中国建国後の開発が遅れている地域であり、四川大学は西南部開発の拠点と期待されている。

目次へ戻る▲

2. 名称と所管

(1)名称

・日本語表記 四川大学 

・中国語表記 四川大学  略称 川大

・英語表記 Sichuan University  SCU

(2)所管

 国務院教育部の直轄大学である。

目次へ戻る▲

3. 本部の所在地

 四川大学の本部は、四川省成都市にある。

 四川省は、北西に青海省、北に甘粛省及び陝西省、東に重慶市、南に貴州省及び雲南省、西にチベット自治区と接する。北部や西部に急峻な山脈が連なり、東部に広大な四川盆地が位置する。四川の名前は省内を南北に流れて長江に注ぐ四つの川(岷江、沱江、涪江、大渡河)に由来している。四川省には、九寨溝や峨眉山などの景勝地があり、ジャイアントパンダの生息地としても有名である。
 気候は四季がはっきりとし、夏は高温・高湿で、冬は穏やかで湿潤である。1月の平均気温は5度から11度と比較的暖かく、7月の平均気温は30度近くに達する。こうした気候は年間を通しての農耕を可能とし、米の二期作や三期作が行われ、穀倉地帯となっている。 
 現在の四川省の人口は約8,300万人(中国第4位)、経済規模はGDPで約53,850億元(中国第4位)である。四川省は古来より、食品加工業や紡績工業、製紙業が盛んである。一方で、製造業や軍需産業が沿海部などから移転し、今では重慶市と同様に内陸部有数の工業拠点となっている。

 大学のある成都市は、四川省の省都である。三国時代に劉備がここを本拠地としたが、魏に滅ぼされている。現在でも成都市には、名軍師・諸葛孔明やその主君・劉備を祀る武侯祠がある。また日本人には、麻婆豆腐、担々麺などの四川料理の中心的な都市として有名である。

諸葛孔明と劉備を祀る武功廟 百度HPより引用

4. 規模

(1)学生数

・学部学生数37,000人(中国主要大学中7位 2022年)
 中国1位・鄭州大学(47,000人)、東京大学(13,962人)、ハーバード大学(約6,700人) 詳しくはこちらを参照。 
・大学院生数 29,000人(中国主要大学中4位 2022年)
 中国1位・中国科学院大学(57,375人)、中国2位・清華大学(38,783人)、東京大学(約13,341人)、ハーバード大学(約15,200人) 詳しくはこちらを参照。

(2)教員数

・専任教師数 4,578人(中国主要大学中3位 2022年)
  中国1位・吉林大学(6,506人)、東京大学(約4,000人)、ハーバード大学(約2,400人) 詳しくはこちらを参照。

(3)予算額

・予算経費 110.12億元(約2,200億円)(中国主要大学中17位 2022年)
  中国1位・清華大学(約6,900億円)、東京大学(約2,600億円)、スタンフォード大学(約6,500億円) 詳しくはこちらを参照。

(4)キャンパス

 四川大学の本部は、成都市武侯区の望江キャンパスにある。同じ武侯区には華西キャンパスがあり、同大学の医学部に当たる華西医学センター(華西医学中心)がある。成都市双流区には、学部生の教養教育を中心とする江安キャンパスがある。

(5)学部

 武漢大学は、政府の教育部が定めている12の大分類(日本の大学の学部に相当)について、芸術や農学を含めて全てを有する総合大学である。

目次へ戻る▲

5. 沿革

 四川大学は、元々の四川大学、成都科技大学、華西医科大学の3つが合流して成立した。

(1)四川中西学堂の設置

 四川大学の母体は、1896年に四川総督の鹿伝霖(鹿传霖)によって成都に設立された「四川中西学堂」である。鹿伝霖は、自らも参戦した日清戦争の敗北に強い危機感を抱き、西欧式の高等教育機関の設置を主導した。同学堂は、設置時から中国語、外国語、数学を教え、外国語としては英語とフランス語を教えた。 

(2)国立成都師範学校と国立四川大学

 その後、近隣地域の教育機関を吸収しつつ発展し、また1911年の辛亥革命後も存続していたが、1916年に新政府の高等教育方針に従い「国立成都師範学校」となった。その後も、さらに他の教育機関を吸収合併し、1931年に「国立四川大学」となった。この時期の目標は、「黄河と長江の源流である広大な地域で、中国の文化の源泉となる総合大学を建設する」であった。

 日中戦争が始まり、多くの大学が中国大陸の西部に疎開を余儀なくされたが、国立四川大学のあった成都市は日本軍の圧力もそれほどではなく、むしろ北京や上海などから疎開した大学の有力教授の協力を得ることが出来た。日本敗戦後の国共内戦や中華人民共和国建国時なども大きな影響はなく、1948年の段階で、理学、工学、法学、農学、教育、芸術の 6 分野で、約1,000名の教員、約6,000名の学生が在籍する総合大学であった。1950年には、名称が「四川大学」となった。

(3)院系調整と成都工学院の設立

 1952年に、中国全土の大学で学部再編政策である「院系調整」が実施された。四川大学も大きな影響を受け、文理系を中心とした大学に位置づけらた。農学系は現在の「四川農業大学」として独立した。また1954年には、四川大学の航空学科、化学工学が分離され、近隣の雲南大学、貴州大学、川北大学などと合併して、「成都工学院」が設立された。成都工学院は、1978年に「成都科技大学」と改称された。

(4)成都連合大学となり総合大学へ

 1994年、四川大学と成都科技大学は合併し「四川連合大学」となった。これにより、院系調整で失われた工学系の学科が戻り、総合大学となった。1998年には、再度「四川大学」と改称している。

(4)華西医科大学の沿革

 現在の四川大学医学部にあたる四川大学華西医学中心の起源は、1910年に設立された「川西協合大学(华西协合大学、West China Union University)」である。同大学は、米国、英国、カナダのキリスト教団体により設置されたもので、文、理、医の総合大学を目指した。その後、日中戦争や中華人民共和国建国などを経て、1951年に「華西大学」となったが、翌1952年の院系調整で医学系(歯学、衛生、薬学を含む)中心の大学である「四川医学院」となり、他の学部は別の大学に吸収された。1985年には、「華西医科大学」に改称した。

(5)新たな四川大学へ 

  2000年には、四川大学と華西医科大学が合併し、新たな四川大学が発足した。華西医科大学は、四川大学華西医学中心として再スタートすることになり、四川大学は医学を含めた総合大学となった。

目次へ戻る▲

6. 現在の指導部

(1)学長

 現学長の李言栄(李言荣)は、1961年四川省生まれで、1991年に中国科学院長春応用化学研究所で博士号を取得した。その後四川大学と同じく成都市にある名門大学の電子科技大学で教鞭を執り、米国のコロラド大学やドイツのカールスルーエ研究所で研究を行った後、2013年に電子科技大学の学長に就任した。2017年からは四川大学の学長を務めている。専門は電子薄膜材料の研究で、2011年に中国工程院院士に当選している。

(2)共産党委員会書記

 共産党委員会書記の甘霖は、1964年に湖北省に生まれ、1981年に長春冶金建築学院を卒業し、湖北省大冶有色金属公司に就職すると共に、共産党員としての活動を開始した。その後、広東省や四川省の共産党組織で要職を務めた後、2022年に四川大学共産党委員会の書記に就任した。

目次へ戻る▲

7. 学問分野の特色

 四川大学は、理学と医学に強い大学である。具体的な指標で見たい。

(1)双一流学科建設

 中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流政策)を開始した。2022年に改訂された双一流学科建設において、四川大学は全体で以下の6学科が選定されている。
  ○理学系(2) 数学、化学
  ○工学系(1) 材料科学・工学
  ○医学系(3) 基礎医学、口腔医学(歯学)、看護学 

(2)国家重点実験室

 四川大学には、以下の4か所の国家重点実験室がある。中国の大学で最も多いのは、清華大学の13か所である。各大学別の実験室数はこちらを参照。
  ・水力学・山河開発保護
  ・高分子材料工学
  ・生物治療
  ・口腔医学

(3)NSFC面上項目予算獲得

 日本の科研費に近い予算として、国家自然科学基金委員会(NSFC)が所管する面上項目予算がある。この予算をどの程度獲得するかで、当該大学の研究能力を判定しうる。2019年で四川大学は中国全体で11位である。詳しくはこちらを参照。

(4)附属医院

 四川大学華西医学中心のHPによれば、2022年現在で、華西医院、華西口腔医院、華西第二医院、華西第四医院の4つの直属医院がある。華西医院は、北京協和医院と並び、中国医院の最高峰に位置する病院である。また、華西口腔医院も中国でトップクラスとなっている。

目次へ戻る▲

8. 学問的な成果と国際的な評価

(1)SCI論文数と被引用数

 クラリベートアナリティックス社のSCIのデータによると、四川大学の2022年5月までの過去10年間の論文数が72,786編、被引用数が997,131で、被引用数での世界順位が190位、中国大学での被引用数順位が13位である。詳しくはこちらを参照。

(2)ネイチャーインデックス

 ネイチャーインデックス(Nature Index)は、世界トップクラスの科学誌・学会誌に掲載された論文数をカウントし、国・機関別に分析した指標である。このネイチャーインデックス2022によると、四川大学の論文数(分数カウント)が268.67編であり、世界順位が36位、中国大学での順位が11位である。ちなみに、世界1位は中国科学院(1,963.00編)で、中国大学1位は中国科学院大学(世界8位、530.20編)、日本1位は東京大学(世界14位、447.54編)である。詳しくはこちらを参照。

(3)中国国内の評価

 中国国内では大学のランキング評価が盛んである。四川大学は、教育部の2022年のランキングで12位(1位は清華大学、詳しくはこちらを参照)、中国校友会2022でのランキングで19位(1位は北京大学、詳しくはこちらを参照)である。

(4)国際的な大学ランキングでの評価

 四川大学は、QS国際ランキング2023で世界406位、中国国内20位であり(詳しくはこちらを参照)、Times Higher Education(THE)国際ランキング2022では世界401-500位、中国国内18位である(詳しくはこちらを参照)。日本の東京大学は、QSで世界23位、THEで世界35位である。

(5)中国校友会傑出学術人材ランキング

 中国校友会は各大学の卒業生の中で、中国科学院院士、中国工程院院士、中国社会科学院学部委員、主要な科学技術賞受賞者、大学の学長、著名な医師などの数を指標としたランキングを毎年公表している。このランキングで武漢大学は、中国国内12位である。詳しくはこちらを参照。

目次へ戻る▲

9. 国際性

(1)留学生

 外国からの留学生は、2019年時点で4,500名である。中国大学トップは北京大学の6,857名であり、他国の有力大学と比較すると、東京大学が4,623名、ハーバード大学が6,228名、カリフォルニア大学バークレー校が10,695名である。詳しくはこちらを参照。

(2)他国の大学等との協力

 四川大学のHPによれば、2017年現在、34か国・地域の268の大学・研究機関と交流と協力を確立しており、米国、カナダ、オーストラリアを含む33か国・地域の214の大学との包括的なネットワークを確立している。

(3)日本との協力

 日本では、北海道大学、北海道教育大学、早稲田大学、金沢大学、同志社大学、関西学院大学、大阪国際大学、徳島大学、愛媛大学、熊本大学と交流関係にある。

(4)四川大学ピッツバーグ学院

 四川大学は2014年に、米国ペンシルバニア州にあるピッツバーグ大学と共同で、四川大学のメインキャンパスである江安キャンパス内に「四川大学ピッツバーグ学院(四川大学匹兹堡学院)」を設置している。専攻は工業工学、機械設計製造・自動化、材料科学・工学であり、は中国に根ざしたハイレベルなリベラルアーツ教育を特徴とし大学院博士課程まで含めて全体で約1,600名の規模を目指している。

目次へ戻る▲

10. 特記事項

(1)大陸西部の有力大学

 四川大学は、中国を7つに分けた地域の1つである西南部(重慶市、四川省、雲南省、貴州省、チベット自治区)にある大学で、このコーナーで唯一取り上げる予定の大学である。今回取り上げないが、この地域の他の有力大学としては、重慶大学(重慶市)、電子科技大学(四川省成都市)、雲南大学(雲南省昆明市)などがある。


(2)医学部と他の学部との違い 

 中国では、医学系の高等教育機関は単科大学として設立されたか、総合大学の中から早い時期に分離独立して発展してきた例が多い。しかし、近年の医学部を含めた総合大学化の要請を受けて、医学部を持たなかった大学が医学の単科大学と合併する例が相次いだ。これまでに取り上げた大学で言うと、北京大学、上海交通大学、復旦大学などであるが、合併した後は他の学部と違って実体的に独立して運営される例が多い。この四川大学も同様と考えられ、共産党委員会も独立して設置されている。

目次へ戻る▲

参考資料

・四川大学HP https://www.scu.edu.cn/index.htm

・四川大学華西医学中心HP https://wcums.scu.edu.cn/index/wzsy.htm

・四川大学匹兹堡学院HP https://scupi.scu.edu.cn/

・百度HP

・中国版Wiki

目次へ戻る▲