第93回 クローンは無限には作れない? 

1.はじめに

 山梨大学と(公)放射線影響研究所の研究者らは、マウスの体細胞から作ったクローンマウスからさらにクローンを作る、いわゆる「再クローニング」をし続けた結果、58世代目で限界を迎えたとネイチャー・コミュニケーションズ誌に発表した。今回はこのことについて、背景、経緯、意義等について分析・考察を行う。

2.クローンとその経緯

(1)クローンとは

 クローン(clone)とは、同一の起源を持ち、かつ均一な遺伝情報を持つ核酸、細胞、個体の集団のことである。特に、動物の体細胞の核を未受精卵に移植する方法(体細胞核移植)で作られた動物をクローン動物と呼ぶ。哺乳類のクローン動物の場合には、さらに核を移植された未受精卵を仮親の子宮に移植するという工程も経なければならない。

 体細胞核移植による最初のクローン動物は、1962年に英国のジョン・ガードン博士により、アフリカツメガエルのオタマジャクシから作られた。同氏はこの業績により2012年、iPS細胞を作製した山中博士とともにノーベル生理学・医学賞を受賞した。

(2)クローンを巡るさまざまな研究

 クローンについては、さまざまな角度から研究が行われてきている。

 まず、クローンづくりの対象となる動物の種類は拡大してきた。特に1996年のクローン羊ドリーの誕生により、高等動物でもクローンが作れる可能性が示唆されると、ヒトのクローンが現実味を帯び、それに伴う議論や規制作りが行われた。日本においても、2001年に「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が施行され、ヒトクローン胚などを胎内に移植することは罰則付きで禁止された。

 その後、ネコ、ウマ、ウサギ、ラクダ等さまざまな動物についてクローンが作出された。なお高等動物では、カニクイザルについてクローンが作製されているが、ヒトはもちろん、チンパンジーやゴリラ等の類人猿のクローン動物については倫理的な問題もあって作出等は行われていない。

 一方、ウシやブタなどの家畜については、優良な品種を流通させる目的で早期から研究が行われている。ただ、ヒトの口に入るものなので実用化にはハードルがある。米国では食品衛生局(FDA)がクローン動物の食用としての安全性を認めたものの、流通は限定的である。日本でも安全性確認のための研究が継続中で実用化はされていない。

 クローン動物としては、この他、絶滅危惧種の保存目的のための研究が行われている。また、亡くなったイヌやネコ等のペットのクローンを作る業者が現れており、その点での実用化はなされている。

 なお、今回の研究を主導した山梨大学の若山教授は、クローン技術の限界や拡張に取り組んできている。たとえば、死後16年間冷蔵庫中で保存さたマウス個体、凍結乾燥細胞や、マウスの尿中の細胞から採取した核、マウスの糞便から見つかった細胞等からマウスのクローンを作製しようとしており、既に達成しているものも多い。また6年間国際宇宙ステーション内で保存されていた凍結乾燥精子等を用いてマウスの胚を受精させることにも成功している。

 ただ、クローンについては、一つ、興味深い問題があった。それは、クローンを次から次へと作り続けていくうちに劣化していかないかということである。ただ、劣化が起こるかどうかをきちんと証明するためには何十世代にもわたって再クローニングを繰り返す必要があり、細胞や下等生物ならともかく、哺乳類などで実際にそれを研究するのは実に根気のいる作業で、これまで長期にわたる再クローニングの実施例はなかった。

3.今回の研究について

(1)研究方法

 山梨大学と(公)放射線影響研究所研究者らは2005年、1匹の雌マウスの核を、別のマウスの核を取り除いた未受精卵に移植し、これを成長させて第1世代のクローンマウスを作製した。その後彼らは、成体になる約3か月ごとに再クローニングを続け、クローン作製の成功率、体重、寿命等を調べた。生まれたクローンマウスは合計で1,206匹になった。

図 再クローニング技術 ドナーマウスからクローンを作り、そのクローンの体細胞から次の世代のクローンを作る。この操作を繰り返す。(ネイチャー・コミュニケーションズ誌の論文より)

(2)研究結果

 この研究における再クローニングの成功率であるが、意外なことに、第1世代の7.4%から、世代を重ねるにつれて変動はあったものの徐々に上昇していった。そして26世代目には15.5%とピークに達した。

 しかしその後、成功率は低下に転じた。ついに58世代目はわずか0.6%となり、しかも作製した5匹は生後数日で死んだため、以降の再クローニングは不可能になった。

図 再クローニングの成功率 26世代まで徐々に高くなっていったがそれ以降は低下。58世代が最後になった。(ネイチャー・コミュニケーションズ誌の論文より)

 最終世代を除いて、再クローニングがされたマウスは見た目も正常で、通常のマウスと同じくらい長生きした。

 しかし、各世代の再クローニングマウスは、自然交配を60世代繰り返したマウスに比べ、突然変異の発生率が3~4倍高かった。しかも、全ての変異が蓄積されて次世代に伝わっていた。

 突然変異は塩基レベルだけでなく、染色体単位でも起きていた。たとえば45世代目の再クローンマウスには7番と9番の染色体間で転座が検出された。また57世代目の再クローンマウスには、さらに12番と16番で転座が検出されたほか、X染色体の1本が完全に失われていた。

 各世代の再クローニングマウスと雄を自然交配させると、生殖能力は残ったが、50世代目以降のものでは出産数が大きく下がった。一方、再クローニングマウスと雄を自然交配させた子マウス同士を交配させると、出産数は正常に近づいた。

4.今回の実験の意義・今後の展望

 今回の実験結果により、無性生殖をずっと続けていくのは最終的には不可能であることが示唆される。染色体全体の欠失を含む大きな突然変異が、クローン系統では異常に高い割合で蓄積したのである。

 つまり、有性生殖に見られるような、自分以外の染色体と交じり合い、組換えを起こすプロセスが生物としての存続には必要らしい。研究者らは「有性生殖は有害な変異を防ぐ必要なメカニズムだ」と指摘している。有性生殖においては、受精の過程において優秀な精子が選抜され、また受精卵に異常があれば発生しなかったり流産につながったりする。そうしたさまざまなハードルを設けて、生き残った者を次世代にすることで生物としての存続を図っているものと思われる。

 なお、当面、本研究成果が最も影響を与えるのは動物育種だろう。これまで動物育種においては、最適な個体が得られた場合、それを維持する最良の方法はクローン作製であると考えられていた。しかし、この突然変異の問題があるしたら、元の個体の細胞がなくなってしまったからと言って、安易に再クローニングを繰り返して品質維持を図れるか疑わしくなる。

5.おわりに

 著者が学生時代、もう今から50年近く前のことのことだが、「ルパン三世 ルパンVS複製人間」という映画を見たことがあった。確かルパン三世としては初の映画化作品だったと思う。詳細は忘れたが、ストーリーとしては、天才科学者が自分自身のクローンを作り出し、それで永遠に生き続けるという話だった。しかしその中で、自分の複製を増やすため、クローンからクローンを繰り返し作り続けているうちに、最後は出来損ないのものばかりができてしまったというくだりがあった。このため博士は、複製にふさわしくない脳については原型を保存することとし、それだけを巨大な培養漕の中で培養し続けていた。

 今考えると、ちょっと今回の研究に通じるところがあるが、当時、このような発想をアニメに取り入れたのは秀逸だったと思う。また当時のこの他の漫画でも、クローン人間とその元となるヒトとの遺伝子の微妙な違いに着目して区別しようとするものもあった。

 人間の想像力の豊かさには感心するが、科学が着実にそうした想像を実現してきている現在の状況にも驚異と若干の脅威を覚える次第である。

参考文献

・S. Wakayama et. al. “Limitations of serial cloning in mammals”, (2026/3/24) Nature Communications (open access)
https://www.nature.com/articles/s41467-026-69765-7

・H. Ledford (2026) “Can a mouse be cloned indefinitely? Decades-long experiment has answers” Nature; Vol.652

・「クローン動物からクローンを作ることには限界が!-哺乳類がクローン生殖できない理由が明らかに-」山梨大学プレリリース
https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2026/03/20260625.pdf

・「「クローンからクローン」は58世代目が限界、”突然変異”が蓄積する」 (2026/3/26), ナゾロジーHP
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/193344

ライフサイエンス振興財団理事兼嘱託研究員 佐藤真輔