第47回 中国の医療機器の現状について

1.はじめに

 中国では、医療機器の国内生産と使用を増やす取組が行われている。本年3月、Nature誌に中国の医療機器についての特集が組まれ、各種医療機器に関する中国の現状が紹介された。今回はその記事を中心として、その他に調べたデータ等も踏まえて考察する。

2.中国の医療機器の国産化の背景と制度

(1)医療機器の国産化の背景

 現在中国の人口は約14億人で、そのうち5分の1が60歳以上である。一人っ子政策の結果、今後高齢者の割合は急激に増加すると予想される。また中産階級の割合も急増しており、それに伴い2型糖尿病や高血圧等の慢性疾患も増加すると考えられる。そうした疾患に対応して早期発見・治療等に資するには各病院等に進んだ医療機器の配備が必要となる。

 中国政府は、海外から輸入された高価な医療機器に依存することによる医療費の増大を抑えるべく、医療機器の国内生産と使用を増やす取組を行ってきている。これには医療コストの削減だけでなく、進んだ医療ニーズへの対応、輸入削減、イノベーションの促進、国家安全保障の強化等、さまざまな観点があると考えられる。

(2)中国製造2025(MIC2025)

 医療機器が、明確に中国の政策の俎上に挙がったのは2010年のことである。同年、医療機器はバイオテクノロジー、再生可能エネルギー、モノのインターネット等と並び、国家の20の戦略的新興産業の1つとして提示された。

 その後2014年、習近平国家主席は「生産コストを削減し、国家企業の継続的発展を促進するには、ハイエンド医療機器の国産化を加速する必要がある」と発表した。ハイエンド医療機器とはCTスキャナー、超音波、透析装置、ペースメーカー等、高性能の医療機器のことである。

 そして2015年、中国国務院は中国製造2025(MIC2025)構想を発表した。同構想では、2025年までに医療機器のほか、ロボット、電気自動車等の10の産業で世界的な製造大国になることを目指すことが宣言された。
 その手順として、次の段取りを示している。
・2025年までに、日本、アメリカ、ドイツなどの世界の製造強国に仲間入りする。
・2035年までに、製造強国の中堅クラスにレベルアップする。
・2049年までに技術・品質などの総合力で、世界製造強国のトップレベルとなる。
 そして当面2025年までに、中・高級医療機器の70%を国内生産し、2030年までには、さらにそれを95%まで高めることを目標にした。

 中国政府はこの目標を達成するため、研究開発、設計、調達における国内の産業能力を強化しようとした。医療機器の重要な部品の生産を強化するとともに、海外製のものでもその組立てプロセスを国内に移す、すなわち海外企業の誘致も視野に入れた。

(3)医療装備産業発展計画(2021-2025)とOrder551

 その後2021年2月には、中国国務院の工業・情報化部(工业和信息化部、工信部)は「医療装備産業発展計画(2021-2025)」を発表し、2025年までの医療機器技術と産業発展に関する目標を設定した。

 同計画では、重点的に推進する医療機器分野として「診断検査装置」、「治療機器」、「リハビリテーション」、「埋め込み型機器」等の7つの分野が設定され、それぞれにおいて重点的に研究開発、技術進展すべき医療機器の品目が示された。

 そして同計画は、2025年までに6~8社の中国の医療機器メーカーを世界の医療機器メーカーのトップ50に入れるという野心的な目標を掲げた。

 さらに同年5月、工信部と財務部は政府調達輸入製品審査指導基準(Order551)を導入した。その中で315品目を挙げ、中国企業はそれらの製品の25-100%を部品ベースで現地製造のものとしなければならないとした。315品目のち200品目近くは眼科用レンズや医療用レーザー等の医療機器だった。

(4)国内医療機器産業の推進施策例

 中国政府は、専用のイノベーションパーク、国内医療技術企業への補助金や研究資金、公立病院への集中大量購入など、さまざまな方法で、医療機器の現地生産と使用を促進するための戦略を推進している。

 特にMIC2025以降、そうした取組みが数多く登場した。たとえば2022年4月、安徽省、湖北省、山西省の各省政府は病院に対し、医療機器や検査機器の使用を国産のものに限定するよう指示を出した。また中央政府は、指定する4つの医療機器工業地帯に企業がオフィスを設立・移転するのを誘致するため、家賃の減額等の奨励金を提供したり、また研究開発投資に対する税制優遇も拡大したりしてきている。

3.実際の国産化の状況

 現在、MIC2025も医療装備産業発展計画も目標として掲げられた期間の終了まで残り1年となっている。では実際に中国産製品の割合は高まっただろうか。

 以下、中国企業の躍進状況についてその例を箇条書きする。
・深圳迈瑞生物医疗电子股份有限公司は2023年7月、自身で開発したMRI装置の量産を開始した。
・上海联影医疗科技股份有限公司は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック時、病院に100台以上の国産CTスキャナーとX線装置を供給した。
・上海の微创医疗科学有限公司は2019年、外科医が同社の腹腔鏡ロボットToumaiを使って最初の手術である前立腺切除術を成功させたと報告した。

 中国の医療機器産業の市場収益は、MIC2025の開始以来平均約20%の割合で増加し、毎年の成長率で国内総生産の拡大を常に上回っている。2015年から2019年の間に2倍以上になった。

 こうしてデータの入手可能な2021年には、中国産の医療機器は全体として中国国内の市場シェアの20%を占めるようになり、たとえば 下図のCTスキャナーのように、市場シェアで1位になる機器も増えている。

中国におけるCTスキャナー契約数
出典:Nature誌の記事より佐藤が加工

 ただ、MIC2025に掲げられた、2025年までに中・高級医療機器の70%を国内生産するという目標達成は難しそうだ。中国国内でも、シーメンス、GEヘルスケア、メドトロニックといった米国・欧州の多国籍企業が支配している部分はまだまだある。
 いくら政府が国内企業を支援したとしても、海外製の医療機器の性能や品質が中国製より格段に優れている場合は太刀打ちできないのである。医療機器は一般に高度な技術が集約されており、中国系企業は単に国産品を揃えるだけでなく、高性能・高品質の機器を目指し、技術開発する余地がまだまだありそうだ。
 一方、専門家の中には、いったん中国製のものに習熟すると、たとえ西洋製の機器の方が優れていても、トレーニングを受けなければ、中国製の機器の方がより使いやすいという感想も見られる。

 下の表は,Qmed社の産業統計から、世界のトップ医療機器メーカー100社のうち中国企業をリスト化したものだが、50位以内に入っているのは1社、100位以内だと9社がランクインしている。

順位企業名(英語)企業名(中国語)
27Shenzhen Mindray Biomedical Electronics Co., Ltd.深圳迈瑞生物医疗电子股份有限公司
59Shandong Weigao Group Medical Polymer山东威高集团医用高分子制品股份有限公司
67Shanghai United Imaging Healthcare上海联影医疗科技股份有限公司
70Lepu Medical Technology (Beijng)乐普(北京)医疗器械股份有限公司
71Shinva Medical Instrument Co., Ltd.山东新华医疗器械股份有限公司
80Jiangsu Yuyue Medical Equipment & Supply江苏鱼跃医疗设备股份有限公司
87MicroPort Scientific Corp. 微创医疗科学有限公司
92Tofflon Science and Technology Group 东富龙科技集团股份有限公司
97Sansure Biotech圣湘生物科技股份有限公司
出典:QmedのHPより佐藤・林が作成

 これを見ると、MIC2025の目標として掲げられた、2025年までに6-8社を世界のトップ50以内にという目標は達成されるのは難しいかもしれないが、現時点で医療機器製造先進国の次に位置するほどにはなっていると思われる。

4.海外企業の対応

 さて、このような中国で、海外企業が医療機器の製造を行うのはなかなか大変である。

 医療機器、特にハイエンドの機器製造のためのプラントを構築するコストは一般には相当大きく、海外進出の決断は覚悟を伴う。その上で、中国製品重視の現地でサプライチェーンを広げていくのは難しく、また知的財産の問題が発生する可能性もある。
 さらに、たとえば米中の緊張が続いている中では米国企業に対し中国政府から横やりが入る等、政治情勢が外国業の参入に影響をもたらすことも考慮しなければならない。

 そのような中でも、一部の外資系医療機器メーカーは、中国市場における競争優位性を維持し、国産化促進の影響を最小限に抑えるような対応を図っている。

 中国の国産化推進には前述のように、中国の(中華系の)メーカーに対する開発から販売までのトータルな支援、および外資系メーカーの研究開発拠点・製造拠点の中国国内への移転の奨励、といった2つの取組みがある。
 前者については、中華系メーカーの急速な発展や、公立病院への入札の制限等により、外資系メーカーは極端な値下げの受け入れや公立病院市場からの撤退を余儀なくされる場合も想定される。このため、各外資系の医療機器メーカーは営業体質の見直しによるコスト削減、製造・販売品目の見直しによる有力な製品への集中、中華系メーカーの部品・製品導入による効率向上等に取り組んでいる。
 後者については、特に中国の地方政府の誘致策に対応し、中国で研究開発拠点を新設する外資系の医療機器メーカーが増えている。それにより政策的な優遇を受けるとともに、中国の一帯一路政策による沿線他国への展開も狙っている。

5.おわりに(日本の在り方も含め)

 前述の世界のトップ医療機器メーカー100社のうち、50位以内には日本からは富士フィルム(18位)、オリンパス(21位)、テルモ(23位)、ホヤ(26位)、キャノン(29位)、シスメックス(46位)の6社が入っており、この分野では日本はまずまず世界の先導国の一つになっている。この中には、山東省で血液検査装置と尿検査装置を組み立てているシスメティック等、中国で積極的な活動を行う企業もある。

 ただ、日本としては、こうした中国の追い上げ等もあり、安閑とはしていられない。もちろん中国だけでなく、米国、ドイツ等、進んだ技術をもつ企業を擁する国々にも負けてはいられない。

 諸外国に伍していくため、日本独自のものづくりの能力や経験をいかした国産製品の開発研究を推進するため、必要な制度や支援を充実させていくことも必要だろう。政府においてもそのための検討や取組みは行われてきており、今後テーマとして取り上げていきたい。

参考文献

・S. Ong (2024) “China’s medical-device industry gets a makeover”, Nature; Vol.627, s29-s31
・厳華「国産化進む中国の医療機器市場と変革迫られる外資側」(2021/11/19)日本総研経営コラム(https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=101530
・“Top 40 Medical Device Companies” (2024/03/01) Qmed社の HP(https://www.mddionline.com/business/top-40-medical-device-companies

ライフサイエンス振興財団嘱託研究員 佐藤真輔