第26回 タウリンの摂取により寿命が延びる?

 多くの食品に含まれ、生体中にも存在する「タウリン」に、老化を遅らせ、寿命を延ばすはたらきがあることが指摘され、話題となっている。今回はこのことについて紹介する。

 この研究は2023年6月、米国コロンビア大学とドイツのミュンヘン工科大学の研究チームがScience誌に発表したものである。

 この研究の主役であるタウリン(taurine)について説明する。タウリンは、タンパク質が分解される過程で生じる物質である。アミノ酸の仲間であるが、普通のアミノ酸と違ってスルホン酸やβ-アミンが含まれている。
 19世紀初めに牛の胆汁から初めて分離されたことから、牛や牡牛を意味するラテン語のtaurus(トーラス)に基づきタウリンと命名されたのだが、実際にはあらゆる動物に含まれ、特に貝、イカ、タコなどの魚介類に多く含まれている。ヒトでも脳、網膜、筋肉、臓器等、体内のほぼ全ての組織に含まれており、体重の0.1%を占める。ただ、体内でも合成されるものの、それらを十分供給するために体外からの摂取が必要になる場合もある。

 これまでの研究で、タウリンの高齢者の脳に対する抗炎症作用や神経保護作用が認められており、その摂取が不十分だと網膜損傷、免疫異常、心筋症等につながることが分かってきている。だがタウリンの老化に果たす役割については明確になってはいなかった。

 この関連性を検証するため、研究者らはまず各年齢のマウス、サル、ヒトから血液を採取することで、加齢に伴うタウリンの濃度の変化を調べた。すると、いずれにおいても、年齢とともにタウリンの濃度が減少することが分かった。15歳のサルは5歳のサルに比べ85%減少し、また60歳のヒトでは5歳児の3分の1となり生涯で80%も低下していることが分かった。

マウス、サル、ヒトの加齢によるタウリンの量の変化(Science誌に掲載された論文より)

 また、彼らは、60歳以上のヨーロッパの成人1万2千人における約50の健康指標について、タウリン濃度との関係を調べた。すると、タウリンの濃度が高い人ほど健康であり、2型糖尿病の症例が少なく、高血圧が減少し、肥満と炎症のレベルが低いことが見いだされた。また、年齢とともに衰えがちな免疫機能や神経系機能、骨の形成や肥満等身体の重要なプロセスに、タウリンのレベルが関連していることが示された。

 このタウリンの不足が本当に老化の原因であるか否かを検証するため、研究者らは約250匹の14か月齢のマウス(ヒトでは45歳相当)を使い、その半数にタウリンを含む餌を死ぬまで与え続けた。すると、タウリンのサプリメントを摂取したマウスは、摂取しなかったマウスと比べ、中央値として約3~4か月長生きした。具体的にはメスの寿命は約12%、オスの寿命は約10%延びた。これはヒトに換算すると約8~9年の延命となる。

タウリンの接種によるマウスの寿命の変化(Science誌に掲載された論文より)

 また、研究者らは14か月齢マウスに1年間、タウリンを補給してさまざまな指標で評価を行った。すると、タウリンを与えられたマウスは、与えられなかったマウスに比べ、エネルギー消費量が多くなり、筋肉の持久力が保たれ、骨密度も高く維持された。また、血糖値、肝機能や免疫系が良好に保たれた。さらに、体重の増加が少なく、若く見え、うつ病や不安行動の徴候の減少等も確認された。つまり、単に長生きしただけでなく、心身共に健康に生きることができたのである。

 タウリンの補給による同様の健康効果は、中年のアカゲザルでも見られた。6か月間毎日投与することで体重増加が抑制され、脊椎と脚の骨密度が増加し、血糖値、肝機能、免疫系の数値が改善されたのである。

 今回の実験はあくまでマウスやサルなどで行った結果であるが、ヒトについても、タウリンの摂取による寿命の延長が大いに期待される。ただ、それを明確に実証するのは難しい。先に述べた1万2千人の実験はあくまで観察実験であり、タウリン以外の条件が寄与している可能性が否めない。真に実証するにはタウリン接種者とそうでないものに分け、比較実験を行う必要があるが、このように長期にわたって実験を行うのは困難である。

 タウリンは、市販のエネルギードリンク等に多く含まれており、ドリンクを摂取する者とそうでない者に分ければいいが、エネルギードリンクを定常的に摂取する者は別の健康習慣もある可能性があり、それが長寿の原因になるかもしれない。また逆に、そうしたドリンクには同時に大量のカフェインと砂糖が含まれているため、それによる健康上の悪影響もあるかもしれない。
 また、タウリンがタンパク質の分解産物に含まれているからと言って、タウリンの摂取量を増やすために、動物由来食品の摂取量を増やせばいいともいえない。13万人超の男女を対象に最長で30年間追跡調査した結果では、動物由来タンパク質の摂取量増加と死亡率の増加に関係が見られたとのことである。またタウリンは思春期の脳には有害となる可能性も指摘されている。
 このようなわけで、タウリンのアンチエイジング効果がヒトで実証されるには、まだ時間がかかると考えられる。

 研究者らは別途、タウリンのレベルと運動との関連についても研究を行っていたが、それによると、激しい運動の後にはタウリンの濃度に顕著な増加が見られた。つまり、運動による効果にタウリンが関係している可能性が示された。そのような研究も含め、コホート等による実証実験だけでなく、寿命延長に果たすタウリンの機能やメカニズムの解明を今後しっかり進めていく必要があると思われる。

(参考文献)

・P. Singh et. al. (2023) “Taurine deficiency as a driver of aging”, Science; Voi.380,

・J. McGaunn & J. A. Baur (2023)  “Taurine linked with healthy aging”, Science; Vol.380, 1010-1011

・Hart「エナジードリンクの主成分「タウリン」に老化を遅らせ寿命を延ばす可能性」Forbes JAPAN公式サイト(2023.6.10)
https://forbesjapan.com/articles/detail/63774#:~:text=%E5%A4%9A%E3%81%8F%E3%81%AE%E9%A3%9F%E5%93%81%E3%81%AB%E5%90%AB%E3%81%BE,%E7%A4%BA%E5%94%86%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%A0%E3%80%82

・「タウリンは老化防止に役立つ可能性 米コロンビア大の動物実験で判明」科学技術振興機構Science Portal(2023/6/20)
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20230620_n01/#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81%E3%81%AE,%E3%81%8C%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82

ライフサイエンス振興財団嘱託研究員 佐藤真輔