第102回 超高齢者では特殊な免疫細胞が増加している

1.はじめに

 大阪大学等の研究チームは、スーパーセンチナリアンと呼ばれる110歳以上の超高齢者等の血液を分析することで、がん細胞等を攻撃する特殊な免疫細胞であるCD4陽性キラーT細胞(CD4CTL)が加齢とともに大きく増加することを明らかにした。今回は本研究の背景、本研究の内容、今後の課題点等について分析・考察を行うこととする。

2.免疫と老化の関係を巡るこれまでの研究経緯

 老化に関する研究については、本ニュースレターで何度か取り上げてきている。(第15回 山中因子でマウスの老化を制御)(第82回 ハダカデバネズミと老化研究)(第89回 寿命の5割以上は遺伝により決まる?)(第97回 トランスクリプトーム時計により老化状態を推測
 これらはいずれも異なる観点から老化の原因やその制御に焦点を当てている。つまり、老化にはさまざまな原因が考えられ、どれか一つだけで説明できるものではない。

 具体的には、老化には遺伝的要因のほか、生活・環境要因、また、老化そのものを進める生物学的機構によることが原因として考えられるようになってきている。

 このうち、遺伝的要因としては、長寿に関連する遺伝子は1つではなく、DNA修復、細胞老化、栄養感知、炎症等さまざまな遺伝子が関与することが分かってきている。また、生活・環境要因としては、食生活の乱れ、運動不足、睡眠の不足や質の低下、慢性的なストレス、喫煙、大気汚染等が知られている。さらに、生物学的機構としては、DNAの損傷、エピジェネティックな変化、タンパク質の恒常性の破綻、ミトコンドリアの異常、幹細胞機能の低下、細胞間情報伝達の異常等がある。

 このように複雑な老化のメカニズムの中で、免疫は大きな役割を果たしている。特に110歳以上の超長寿者は、並外れた長寿を誇るだけでなく、認知症やがん等の老齢期特有の病気にもかかりにくいようだ。これは、免疫が体内に生じた異常な細胞や物質を排除することで、老化の防止に関与している可能性を示唆するものである。

 以前、1980年代くらいまで考えられていたのは、若者は免疫が強く、高齢者は免疫が弱いということだった。年齢とともに免疫細胞であるT細胞をつくる胸腺は萎縮することもあり、ある意味でそれは正しいと言えた。免疫が衰えることが、感染症への対応の低下や、がん細胞等を排除する力の低下等につながると考えられた。

 しかし、1990年代以降、より重要なことが分かってきた。高齢になると、炎症が起き、それが弱い状態で続く場合が多くなる。そうなると、動脈硬化、糖尿病、筋肉量の減少、神経変性等の加齢性疾患が引き起こされる。しかし、炎症は免疫が過剰に起こることで生じる。これは、高齢者で免疫が弱くなることと矛盾しているようにも思われる。このことから、高齢化に伴い、特に超長寿の人たちの免疫系はどうなっているのか、関心が持たれるようになってきた。

3.今回の研究について

(1)著者らのこれまでの研究

 今回の研究を主導した大阪大学の橋本浩介准教授は、前職として理化学研究所に所属していた時、2019年にピーナス(PNAS)誌に論文を発表した。

 それは、110歳以上のスーパーセンチナリアン7人と、対照として50~80歳の5人から血液を採取し、血液中の約6万1,000個の細胞を、シングルセルRNAシーケンシングという方法で1つ1つ解析したものだった。すると、スーパーセンチナリアンの場合、CD4陽性キラーT細胞(CD4CTL)という特殊な免疫細胞が、全T細胞の25~30%と、非常に高い割合を占めていることが分かった。なお対象群ではCD4CTLの割合は約2.8%にすぎなかった。

 少し説明すると、免疫細胞のうちT細胞は、胸腺で樹状突起から作られ、当初はCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞からなる。それぞれ分化して、CD4陽性T細胞からは免疫の司令塔となるヘルパーT細胞が、CD8陽性T細胞からは感染細胞等を攻撃する実行部隊であるキラーT細胞が形成される。だが、この研究によると、CD4陽性T細胞からできたヘルパーT細胞の中に、キラーT細胞の性質も帯びた特殊な免疫細胞(CD4CTL)が混ざっており、しかもその割合がスーパーセンチナリアンの場合、異常に多い、つまり、CD4陽性T細胞がヘルパーT細胞にならず、特殊な殺傷能力を獲得して、急速に増殖していることが推測できたのである。

 ただ、この研究には弱点があった。それは、この研究では大雑把に50~80歳の人々と110歳以上の人々を比較しただけで、検体数も少なかった。このため、CD4CTLは、単に年齢とともに次第に増えてきているだけではないかという疑念が生じた。つまりCD4CTLの増加が長寿の原因ではなく、長寿の結果、たまたまCD4CTLが増えているにすぎないということである。このため、実態をもう少し詳細に調べる必要が出てきた。

図 高齢者でヘルパーT細胞がキラーT細胞の性質を帯びたものに変わる様子
(SYSMEXの記事を元に佐藤作成)

(2)今回の研究について

 前回の研究成果を踏まえ、橋本氏は、阪大に移籍後、理化学研究所や慶応義塾大学と協力し、老化と免疫の関係について、さらに詳細に調べることにした。70代から90代の被験者8人、100歳~109歳の被験者10人、110歳以上の被験者10人から血液を採取し、血液中に含まれているT細胞の割合を分析した。さらに、1,500人規模の公開データを加えて解析対象を0歳から100歳代まで広げ、AIモデルを用いて統合的に解析した。

 その結果、超高齢者については、CD4CTLが明らかに多いことが分かった。そして、CD4CTLの割合は高齢になるほど増えていることが分かった。70代~90代の被験者ではT細胞に占めるCD4CTLの割合の中央値は4.0%だったが、100歳~109歳では9.6%となり、110歳以上ではなんと17.6%という高い割合を記録した。このように、高齢になるに従って急激にCD4CTLの割合が増加するということで、単なる長寿の結果として増加したのではなく、CD4CTLそのものが長寿の原因になっているのではないかということがより強く示唆された。

 また、CD4CTLは免疫系が攻撃を受けている時に、クローンで自己複製をすることが知られている。そこで研究チームは、被験者の血液に含まれるCD4CTLの表面にあるTCRという抗原受容体を調べ、どれほどの割合がクローンによって増殖したのか調べた。

 すると、被験者の血液中に含まれるCD4CTLのうち、平均33.3%が単一のクローンであることが判明した。特にある100歳以上の被験者は、単一のクローンが全体の53.8%を占めていた。この結果、高齢者が免疫系の攻撃にさらされ、それに反応する際のクローン増殖が、CD4CTLの増加を促進する要因であることが推測された。

 さらに研究者らは、増えたクローンがどのような抗原を認識していたかを、TCR受容体の配列を元に調べたところ、肺がん、乳がん、肝臓がん等の患者の検体で得られたT細胞のTCRと一致した。これら高齢者は、長期間生きているがんに罹患したために、がん患者で見られるTCR受容体が増えたという可能性があった。しかし、驚くべきことに、研究に参加した100歳以上の参加者らにはこれらのがんは見つからず、また罹患歴もなかった。このことから、CD4CTLのクローン増殖が、既に発生したがんを除去するためではなく、まだ疾患として顕在化していない免疫系の攻撃に対して対応・準備している過程である可能性が示唆されたのである。

図 年齢層ごとのCD4CTLの割合(ResOU HPより)

4.今回の研究の意義と課題

 今回の研究の結果、CD4CTLの顕著な増加が100歳前後から現れ、しかも特定のTCR受容体を持つクローンが大きな割合を占めることで、単なる加齢の直線的な結果ではなく、長寿に有利な適応だという可能性が高くなった。つまり、CD4CTLが多い人は、感染や、がん、老化細胞に対する監視能力を維持することで、疾病の原因となる細胞や物質を排除したり、疾病の発症を遅らせ、その結果として110歳まで到達したという説明の方がしっくりくる。

 ただ、今後に向けて、課題がいくつかある。

 まず、 スーパーセンテナリアンは日本にはわずか約150人しかおらず、検体数としては非常に少ない。なので、その年まで生き残っている人がたまたま特殊な免疫細胞が多かったという反論に抗うためには、国際協力も進め、検体数を増やすほか、もともと80代、90代でCD4CTLが多い人について、今後、CD4CTLが少ない人々より長寿になるかの追跡調査も必要かもしれない。

 また、CD4CTLについてはまだよく分かっていない部分も多い。今回長寿者で増殖していたCD4CTLは何を認識しているか。ウイルスなのか、がんなのか、老化細胞なのか。免疫系の細胞は血液を循環しているため、CD4TCLがどの組織に入り込み、どのような働きをしているかはまだ特定できてはいない。今後、各種疾患患者のTCRや若い人々の特定の組織に存在するCD4CTLとの比較等も踏まえ、その働きを明らかにしていくことが必要だろう。

 さらに、なぜCD4CTLは110歳前後から増えるのか。慢性的な抗原による刺激のせいか、又は免疫環境の変化のせいなのか、遺伝的素因なのか等、明らかにしていくことも必要だろう。

 そして、CD4CTLの働きが解明され、それが長寿に大きく貢献することが分かった場合には、将来的には、人工的にCD4CTLを増加させることにより、がん細胞、老化細胞等を認識させて積極的に排除させる、すなわち長寿化のための治療法を探っていくことも考えられる。

 老化は各種の要因が絡む複雑なシステムであるため、なかなか単純にはいかないと思われるが、一つ一つ課題を克服した先には、老化の大幅な制御が現実化することを期待したい。

5.おわりに

 本研究と直接的には関係してはいないのだが、著者の父はこの8月で100歳を迎えた。現在、著者は岡山県で父の介護をしているが、同県の総人口180万人のうち、男性で100歳以上はわずか200人しかおらず、非常に稀な存在である。父がさらに希少なのは、原爆にあったことだ。広島市内で爆心地から3.6キロメートルのところで被爆し、その後死者の処理等を行っているうちに激しい下痢に見舞われ、それが何十日も続いた。父は死を覚悟したが、3か月ほど経ったある日、下痢はぴたりとやんだ。父は神に感謝し、その後、勉強してこの世の不条理を見極めようと、旧制の第六高等学校から京大の哲学科へ進んだ。そして、現在もまだ頭はよく働き、記憶力は著者よりよいほどだ。

 そんな父だが、被ばくしたにもかかわらず、これほど長生きできているのはなぜかと、著者は折に触れて考える。少量の放射線は体によいというホルミシス効果という現象が知られているが、それにより、免疫系をはじめとした遺伝子が活性化されたのかもしれない。だが、下痢が何日も続くような大量の被ばくをそれに当てはめるのは穿ちすぎだろう。ただ、父は老年期に入ってから前立腺がん、皮膚がんという、2種類のがんを経験しており、今回の研究成果は当てはまらないかもしれない。老化は一筋縄ではいかない。

参考文献

・K. Bourzac, “How do people live beyond 110? “Abundance of cancer-killing cells might be key” (2026/8/19) Nature HP
https://www.nature.com/articles/d41586-026-02587-1

・「100歳を超えて増加する免疫細胞/超高齢期のT細胞免疫の再編成を明らかに」 (2026/8/20) ResOU HP
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2026/20260820_1

・「110歳以上の超高齢者、がん細胞を殺す特殊免疫細胞が4倍多かった」 (2026/8/20) Finance BigGo HP
https://finance.biggo.jp/news/0b0e740b-d0b8-4a97-9883-b232de1fe98d

ライフサイエンス振興財団理事兼嘱託研究員 佐藤真輔